衆議院議員選挙が始まった。メディアは「安倍vs.小池vs.枝野」という構図で各党の獲得議席数を予測しているが、日本の政治に期待を持てない無党派層は「あいつは受かるか?」などと注目議員の当落を予測していることだろう。
今回、全国から興味津々の視線を注がれているのは、やはり「このハゲー!」で自民党を離党した豊田真由子氏や、不倫問題で民進党を離党した山尾志桜里氏などだろう。いずれも、「これまでにない“ドブ板選挙”に徹する」と報道されている。
「金に汚い」「品のないババァだ」
ドブ板選挙とは、「地元をくまなく回って票を稼ぐ、もっともポピュラーな選挙戦術」である。実は、筆者はドブ板選挙を得意とする政治家(仮にA先生とする)の選挙対策本部の一員として、選挙戦にかかわった経験を持っている。
主な役目は、選挙カーの運転、駅前演説の補助(選挙用ジャンパーを着て幟を持ち、A先生の脇に寄り添う)、選対本部での支持者対応、A先生とともに地域を回る……など、選挙期間中はぶっ通しでA先生を支援する。基本的には、完全ボランティアだ。
選挙運動というのは、始めるとクセになる。特に、普段はかかわらないような人たちと触れ合えるのは非日常の体験であり、楽しみのひとつだ。しかし、それ以上に“人間の裏側”を垣間見ることができるのがおもしろい。
たとえば、選挙カーの運転中にほかの候補者とすれ違ったときのことだ。A先生は笑顔で手を挙げながら、隣でハンドルを握る私に「あいつは金に汚いんだよ」「ヤツは酒癖が悪くてなぁ」「ホント、品のないババァだ」などと、聞いてもいないのに教えてくれる。基本的に議員同士は「全員が敵」であり、心底仲良くなることなどめったにないのだ。
また、握手したばかりの支持者に対しても「昔はかわいかったのに、今はあんなおばさんになって」などと、自分を棚に上げて評することもあった。そんなA先生だが、実は選挙カーに同乗することはほとんどない。なぜなら、有力支援者たちに頭を下げてまわっているからだ。
仮に当選ラインが1000票だとすると、1000人に頭を下げるよりも「10票持っている人100人」「20票持っている人50人」から支持を得るほうが効率的であり、候補者はそのために腐心する。この動きがさらに大きくなると、いわゆる「組織選挙」となるわけだ。
選挙期間中はフル回転する選挙カーだが、評判は決して良くない。街中で「うるさい!」と怒られたり、手を振ってくれるのは小学生だけという日もあったりする。それでも選挙カーを走らせるのは、有権者に「必死に選挙運動をしている」とアピールするためだ。
A先生は「選挙カーはプラスには作用しない。マイナスを防ぐためだけにやるもの」と語っている。ドブ板選挙においては、確かにその通りかもしれない。ちなみに、A先生は中古の軽ワゴンを選挙カーとして利用している。「ボロいほうが、少ない予算でがんばっているように見える」のが、その理由だ。