体罰をめぐっては、驚くべき実態が明らかになっている。文部科学省の発表によると、全国の公立の高校・中学校・小学校の体罰件数は昨年4月から今年1月にかけて計840件で、調査を開始した1997年以降で過去最高となった。体罰が行われたのは752校で、被害を受けた生徒数は1890人。ただし、これは教員の自己申告による1次報告にすぎず、生徒への聴取などによる2次報告ではさらに件数が増えるとみられている。
元田無市(現西東京市)教育委員長の谷尻哲氏は、その背景について次のように解説する。
「一般論ですが、学校内は聖域であるという理由で、よほどの事態でない限り、警察官が学校内に入ることはありません。いきおい、学校内は一種の治外法権であるというような錯覚を起こしている教師もいます」(谷尻氏)
教師による体罰が発覚しても、学校や教育委員会が隠ぺいに走る傾向が強い中で、保護者はどう立ち向かえばよいのだろう。いわば“隠ぺい力”によって逃げ切ろうとする道をふさぐ手段について、谷尻氏に聞いた。
–相変わらず、教師による生徒への体罰が発覚し続けています。運動部出身者には、「殴られて強くなった」とか「体罰に愛情を感じていた」などと体罰を容認するかのような発言をする例もありますね。
谷尻氏 生徒に対する教師からの体罰は、それを受けた生徒から他の生徒への暴力の連鎖を呼ぶ結果にもなりかねません。絶対にしてはならない行為です。学校教育法第11条には「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、 文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と規定されています。懲戒とは叱責や起立などで、体罰とは無縁の行為です。
–わが子が教師に体罰を受けた場合、保護者にとって最大の壁は、その事実を隠ぺいされてしまうことです。
谷尻氏 教育行政を実質的に仕切っているのは教育委員会事務局ですが、事務局職員は公務員です。教師も公立学校の場合は公務員です。人間は誰しも自分にとって都合の悪い事実を隠そうとするものですが、ことに公務員には隠そうとする習性があり、しかも隠ぺい工作が巧みです。隠ぺいしていること自体、見えなくしてしまうこともあります。教育現場での隠ぺいはきわめて悪質な行為ですが、同じ公務員仲間をかばおうという意識も働いて、教育委員会事務局は徹底的に隠そうとします。
–保護者は、学校や教育委員会にきちんと事実を解明した上で、解決してもらえると期待するしかないのが現実でしょう。しかし、いまや隠ぺいに走る可能性が高いという前提で対処しなければならないのでしょうか?
谷尻氏 体罰を行った教師に抗議をしても意味がありません。加害者本人ですから、正直に答えるかどうかわかりません。そこで、学校長と教育委員長に文書を送付して、事実関係についての情報開示と体罰の中止を要請することです。口頭でのやりとりでは、いくら要請したところで学校も教育委員会も隠し通して、正確な事実関係を開示しません。また行政機関には、文書の提出をもって正式な要請と見なす傾向があります。
●学校長と教育委員長宛てに文書を送付する
–効力を発揮する文書の書き方を教えていただけますか?
谷尻氏 法的な根拠を示すのです。体罰は憲法第13条の幸福追求権、第25条の生存権、第26条の教育を受ける権利、学校教育法第11条の体罰の禁止に抵触するので、直ちにやめるように要請し、さらに体罰の事実関係の情報開示、当該教師の処分実施などを要請します。この文書は学校長と教育委員長のそれぞれに宛てて、内容証明で送付するのです。
–法的に回答義務のない文書に対しては、無回答という逃げの手段がありますが、それにはどのように対処すればよいのでしょうか?