大学生の年代を含む15歳~20代の死亡原因の第1位は依然として自殺となっており、特に20代は死亡原因の約半分を占めている。また、大学生の自殺数が減少していない。
その点について、藤本昌さん(全国大学生協共済生活協同組合連合会・全国大学メンタルヘルス学会個人会員)は、次のように指摘する。
「身体の不調、言葉や態度に垣間みられる、自殺につながるSOSサインを見逃してはならない。簡単なことではないが、日頃からそう意識しておくこと自体が重要だ。大学生協では、全国大学メンタルヘルス学会・日本学生相談学会等でつながる方にご協力いただき、学生とともに『体と心の両方をサポート!健康チェック・メンタルヘルスの活動』を実施している。コロナ禍の今こそ、つながり合い、語り合い、助け合おう! という学生自身の強い気持ちが根底にある。
すべての学生を孤立させずに、今いる場所で必要な人とつながることが『最強の自殺予防策』といえる。ぜひ、コロナ禍の学生を対象として実施された、全国大学生活協同組合連合会の2020年調査・2021年3月公表の『第56回学生生活実態調査』も併せてご覧いただきたい。『自殺予防のヒント』が隠れている、と考えるからだ」
この調査結果なども踏まえて、大学生の悩みや生活の不安、それに起因する自殺の問題について考えてみたい。
大学1年生に多い「友達がいない悩み」
大学生の悩みについては、表1「日常生活の中で日頃悩んでいることや気にかかっていること」(第56回学生生活実態調査)を見てみよう。
「友達ができない(いない)・対人関係がうまくいかないこと」を気にかけているのは17.3%(前年比+6.0ポイント)。1年生34.5%(同+20.3ポイント)、2年生13.6%(同+0.8ポイント)、3年生10.1%(同+0.4ポイント)、4年生6.9%(同-1.0ポイント)と、特に1年生の増加率が大きい。対面授業が減り、オンライン授業中心でキャンパスに行けないことが主な理由と考えられる。
「就職のこと」は42.7%(同+6.0ポイント)。1年生31.8%(同+3.6ポイント)、2年生47.4%(同+8.9ポイント)、3年生61.4%(同+8.5ポイント)、4年生32.0%(同+2.9ポイント)と、やはり企業の採用人数の大幅減少を懸念してか、2・3年生で特に増加している。
また、「生きがいなどが見つからないこと」は23.5%(同+1.7ポイント)で、自宅生24.4%(同+2.9ポイント)、下宿生22.6%(同+1.1ポイント)となっている。
「サークル等の活動のこと」は14.7%(同+2.4ポイント)で、1年生21.8%(同+5.9ポイント)、2年生17.1%(同+0.5ポイント)、3年生11.9%(同+1.7ポイント)、4年生5.4%(同-0.1ポイント)と、やはり1年生の増加率が大きい。友人関係と同じような悩みといってよいだろう。
悩んでいることを相談する相手が「いる」は81.7%、「いない」が18.3%となっている。最も相談しやすい相手は「友人」39.7%、「親」25.8%で、「友人」は前年から2.1ポイント減、「親」は4.6ポイント増となっている。このような悩みは直接自殺の動機になるものではないが、それが積み重なって心の病に発展し、自殺という取り返しのつかない事態を引き起こすこともあり得る。
女子大学生の自殺が増えている背景
表2「動機別自殺者数(大学生)2014→2020年」(厚生労働省調査から筆者作成)で2014年と2020年の経年変化を見ると、総数は微減となっている。自殺の動機についても、その順序に大きな変化はないが、精査すると、やはり新型コロナの影響と推測できる数字が出てくる。それは、特に男女比の変化から読み取ることができる。
2014年と比べ、2020年の自殺者総数は男性が20ポイント減となっているが、逆に女性は50ポイントも増加しているのである。実数では男性は女性の2倍だが、その差は急速に縮小している。
動機別に見ると、「親子関係の不和」が男女ともに倍増しており、これは新型コロナの影響でステイホームの時間が長くなり、親子間の生活意識や価値観が対立する場面が多くなったと推測できる。
「うつ病による悩みや影響」では男性は減少気味なのに、女性は2ポイントも増えている。これも新型コロナの影響と言えるかもしれない。
また、これは共通点があると思われるのが、「就職失敗」と「その他進路に関する悩み」である。ともに男性は2014年と比べて減っているのに、女性は急激に増えている。男性は大勢順応で「俺だけではない」と考えるのに対し、女性は真剣に思い詰める傾向があるのかもしれない。また、就職や進路に関していえば、女性の希望者が多い航空会社、デパート、大手アパレル、ホテルなどの求人がコロナ禍で減少していることも関連があるのだろう。
精神的にも、孤独感を動機とする自殺は、男性は減っているのに、女性は2人から9人に増えている。総じて、コロナ禍の大学生活では、女性が精神的に追い詰められているという印象になっている。
白黒をつけなくてもいい「曖昧耐性」とは
日本学生相談学会理事長で甲南大学文学部教授の高石恭子さんは、学生相談室カウンセラーの経験から、次のようにアドバイスする。
「心理学には、『曖昧耐性(ambiguity tolerance)』という言葉があります。不安になると、人は早く白黒をつけてしまいたくなるものですが、グレーはグレーのまま、決まらないものは決まらないままに置いておける能力のことです。『曖昧』というとマイナスのイメージを持たれるかもしれませんが、実は、人が生きていく上では、何が正しいかはすぐわからないことの方がずっと多いのです。曖昧耐性=不確実さに耐える力は、よりよく生きるために『多様性を抱える力』『待つ力』と言い換えてもよいでしょう。
ぜひ、この機会に、みなさんも意識して『曖昧耐性』を身につけてください。『この判断は正しいか、誤りか』と二分法で考えず、何%ぐらい妥当かな、と考える癖をつけるのです。それでも不安でたまらないという人は、どうぞみなさんの大学の学生相談室にいるカウンセラーに話してみてください。不安を話す=離すだけでも、曖昧耐性はアップするはずです」
コロナ禍で行き先不透明の現在、すぐに白黒を決めたり、もうダメだと失望するのでなく、曖昧なまま、わからないことは先延ばしにしてもよい、という考え方を、大学生の間に広げていくことが必要だろう。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)