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予約が消える“ポンコツ”のワクチン予約サイト、報道に逆切れした岸防衛相の呆れた不見識

文=明石昇二郎/ルポライター
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「防衛省 HP」より

面子を潰されて怒る防衛大臣

「岸信夫@KishiNobuo 5月18日

自衛隊大規模接種センター予約の報道について。

今回、朝日新聞出版AERAドット及び毎日新聞の記者が不正な手段により予約を実施した行為は、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です」 

 5月17日、菅義偉首相の肝いりで始まった、自衛隊による新型コロナウイルスワクチンの「大規模接種」オペレーションの予約。これをめぐり同日、実在しない接種券番号でも予約ができてしまうことを実際に確かめつつ報じた朝日新聞出版と毎日新聞に対し、岸信夫防衛相は前掲のツイートで猛批判した後、防衛省として両社に対し、書面で抗議した。でたらめな番号でも予約できることを実際に確かめる「裏取り」作業をしたことを具体的に報じたことが、とにかく気に食わなかったようだ。

 岸防衛相のツイートに連なる世間の反響(引用ツイート)の中には、防衛相の実兄である安倍晋三前首相の、

「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える。

防衛省の抗議に両社がどう答えるか注目」

といったものもあり、輪をかけて賑やかになって今では“お祭り騒ぎ”の様相を呈している。実在しない接種券番号でも予約できることを、裏取りしながら報じた記事には日経クロステックのものもあるのだが、引用ツイートの中には、「日経には抗議しないの?」と防衛相に尋ねているものもある。

 ただ、引用ツイートのコメントに目を通していくと、防衛相を支持するものと、朝日や毎日の記事を支持するものが半々といった情勢。ネット民の大勢は今のところ、どちらか一方に与しているわけではなさそうだ。朝日の記事(AERAドット)には、

「予約が始まった直後、『ワクチン予約に大変な欠陥が見つかった。システムのセキュリティが機能していない』(防衛省関係者)という情報が飛び込んできた」

とある。事実であれば、取材の端緒は内部告発だったことになる。朝日だけでなく毎日や日経も、予約が始まった5月17日のうちに当該記事を配信しており、この内部告発者(一人なのか複数なのかは不明だが)は、サイトの不備が原因で「大規模接種」が大規模な混乱に陥ることを危惧し、複数のメディアに対し、そうなる前にリークしたことになる。「実在しない接種券番号でも予約できる」と伝えたのは、システムに素人の記者でもすぐ理解できるように、特にわかりやすい問題点を選んで知らせた可能性が高く、予約システムにはそれ以外にも重大な欠陥が潜んでいる恐れがあるかも、と筆者は睨んでいた。

 ともあれ、このリークは「公益通報」としての情報提供であり、通報者は公益通報者保護法で保護されるべき対象となるのだろう。そうなると、次に危惧されるのは、防衛省が躍起になって“犯人捜し”と“報復”を始めることだった。

        ※

 驚いたのは翌日の5月18日夕方、時事通信が、「防衛省はシステム上の不備を事前に把握していたが、24日の接種スタートを優先し、改修を見送っていた」として、「岸信夫防衛相は18日の記者会見で、国が運営する新型コロナウイルスワクチンの大規模接種の予約システムを一部改修すると表明した」と報じたことだった。なんと防衛省は、予約システムの不備を知っていながら内緒にして「大規模接種センター」の予約をスタートさせていたのである。

 朝日や毎日の記事に対する岸防衛相の一連のリアクションは、国の安全保障を担う防衛省の面子を潰されて逆切れし、さも“そんなことはお前に言われなくてもわかっていたもんね”と意気がっているのと変わりない。朝日や毎日にケンカを売ったツイートを諫める側近はいなかったのだろうか。

 そして5月21日、筆者の嫌な予感が的中する。同日の東京新聞朝刊は1面トップ記事で、「大規模接種」の予約サイトで正しい接種券番号を入力してもエラーが出て予約できない人が、都内の板橋区や目黒区などで続出していると伝えた。今度は「予約ができない」というのである。いやはや、かなりのポンコツシステムだ。しかし岸防衛相は、東京新聞の報道があってもなお事態を把握できておらず、21日午前の記者会見でもまだ、「利用者に混乱が生じているとの報告はない」と述べていた。大変まずい対応である。

 事態を受け、防衛省は急遽、同日から電話での相談を受け付けることになった。ネットでの予約方法に関する質問に、電話で答えるのだという。でも予約は受け付けず、予約はあくまでもネットを通じて予約サイトでやらなければならないのだそうだ。なんと効率の悪いことをやっているのだろう。

 さらに5月25日、取れたはずの接種予約が消えてしまうケースまであると、同日の東京新聞朝刊が報じる。予約システムそのものに欠陥があることは、もはや誰の目から見ても明らかだった。

 筆者は当サイトで先日、新型コロナワクチンの接種予約にまつわる問題点を指摘する記事を書いたばかりなのだが、どうも我が国にとってワクチンの「予約」は鬼門であるらしい。

一連の報道は誰の役に立ったのか?

 またしても日本国民は、自分の祖国がデジタル後進国であることを思い知らされたわけだが、本稿では、朝日新聞出版と毎日新聞の報道が、公益通報をもとにした「公益性のある報道」なのか、それとも安倍晋三氏が言う「悪質な妨害愉快犯」なのかを検討してみたい。その判断基準となるキーワードは「公益性」であり「皆の役に立ったかどうか」である。

 そもそも、予約システムに何の心配もなければ、「防衛省関係者」が身の危険を冒して朝日や毎日等に欠陥情報をリークする必要はさらさらなかった。この関係者氏は、問題が発生した際に責任を取らされる立場の人かもしれない。システムの欠陥が、オペレーションに重大な支障をもたらす危険があり、それに目をつぶったまま、何の対策も取らずに走り出そうとしていたからこそ、予約開始の直後に内部告発した――と考えるのが自然だろう。この「防衛省関係者」氏の行動がなければ、朝日や毎日の報道もまた、なかった。

 しかし、1日1万人の高齢者のワクチン接種を目指すからには、その数倍の人が日々アクセスするサイトとなるだけに、いずれ不具合が生じて欠陥がバレてしまうのは時間の問題だった。前掲の東京新聞の「予約ができない」報道が、まさにそのことを証明している。つまり、防衛省が隠し通すことは不可能だった。

 それに、実在しない接種券番号でも予約ができてしまうことより、その後明らかになった「正しく入力しても予約できない」ことのほうが、よほど問題である。予約ができなければ接種も始まらないわけで、システムの改修が必要なのは「予約できない」ことのほうであるのは論を俟たない。

 もし「予約できない」システムであることのほうが先に世間の知るところとなっていれば、文字どおりの一大スキャンダルに発展し、岸防衛相は間違いなくその責任を追及されたことだろう。ことと次第によっては更迭されていたかもしれない。となると岸氏は朝日や毎日に抗議どころか、感謝しなければならないのかもしれない。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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