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ワクチン接種予約、混乱の元凶…官僚はマイナンバーカード混乱と同じ過ちを繰り返し

文=明石昇二郎/ルポライター
ワクチン接種予約、混乱の元凶…官僚はマイナンバーカード混乱と同じ過ちを繰り返しの画像1
コロナワクチン接種の予約サイト画面

希望者が多くないと思われていたワクチン接種

 昨年10月、世界経済フォーラムなどがインターネットで、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する意識調査を実施した。調査の対象国は日本やアメリカなど15カ国で、サンプル数は約1万8000人。ワクチン接種に「同意する」とした人は73%で、「同意しない」とした人は27%だったという。

 国別の割合では、ワクチン接種に「同意する」と答えた人が多かったのはインド(87%)と中国(85%)。一方、低かったのはフランス(54%)とアメリカ(64%)、そして日本(69%)だった。

 こうしたアンケートの結果から、ワクチン接種希望者はそれほど多くはないだろうと日本政府が甘く見たことが、現在の「ワクチンパニック」を招いたのか。新型コロナワクチンの接種はインフルエンザワクチンの接種と同様、1年(もしかすると半年)ごとに繰り返し打つことになりそうなので、毎度混乱が繰り返されることがないよう、「ワクチン予約パニック」の検証をしてみることにした。

予約サイトは「フリーズ」、電話はパンク

 現在88歳になる筆者の母は、いわゆる優先接種の対象者である。都内の自宅と介護老人保健施設(老健)を行ったり来たりしながら新型コロナ禍の下の生活を送っているのだが、先日、老健のケアマネージャー氏から、

「ウチの施設でも集団接種を考えているのですが、いまだ予定がまったく立っておらず、もしワクチン接種を希望していらっしゃるのでしたら、お手数ですが個別にお母さんのワクチン接種の予約を取っていただきたいのですが」

との電話が来た。

 母が暮らす地域の自治体では、5月6日の午前9時から電話とインターネットで予約を取り始めることになっていた。そこで同日の昼前、ネットの予約サイトを覗いてみると、まったくアクセスできない(記事冒頭の画像)。予約用の電話番号にかけても、「ただ今大変つながりにくくなっております」とのアナウンスが繰り返し流れるだけだった。

 仕方がないので、パソコンで別件の作業をしながら、30分おきに予約サイトへのアクセスを試みる。ネットニュースでは、

「高齢者を対象にした新型コロナウイルスのワクチン接種の予約について6日から受け付けを始めた東京都内の自治体の一部では、開始直後からコールセンターや専用サイトに電話やアクセスが集中し、つながりにくい状態が続いています」(2021年5月6日 14時26分、NHK)

などと報じていた。

 予約サイトにようやくアクセスできたのは、パソコン前に座ってから3時間ほどが経過した午後3時過ぎのことだった。しかし、1回目の接種予約を取り終えたところで画面がフリーズ。放っておいても動く気配がない。2回目の予約を取るため、しばらく時間をおいてから再アクセスしたものの、サイトはフリーズを繰り返す。でも、放っておくと再び動くようになったので、2回目の接種予約も取ることができた。時計を見ると、最初に予約サイトにつながってから1時間以上が経過していた。およそ一日がかりの大仕事になってしまったわけである。聞けば、この日のうちに予約が取れなかった人が続出したのだという。「緊急事態」が聞いて呆れる。

 その日の夕方、新聞やテレビは揃って、東京都内の固定電話への通話が制限されたことを報じていた。午前9時以降、処理能力を超える電話が集中したのだという。原因は、都内の複数の自治体がこの日から始めていた、新型コロナウイルスのワクチン接種の電話予約だった。

 このあおりを食らった人は、相当な数に上るだろう。筆者の妻の母親もその一人で、妻(つまり娘)に何度電話をかけてもまったくつながらず、テレビのニュースで事の次第を知り、翌朝かけ直すことにしたのだという。現行のワクチン接種予約システムは、ワクチン接種とまったく関係のない市民生活全般にまで迷惑を及ぼしていた。

     ※

 その8日後の5月14日、年に一度の健康診断を受けるため、筆者はかかりつけ医を訪れていた。筆者の住む都内某区では、診療所で個別にワクチン接種を受けることを希望する高齢者の予約受付が、5月17日から始まることになっていた。このかかりつけ医でもワクチン接種を受けられることになっており、医院の待合室にはその旨を告げるポスターが貼られていた。その予約受付や接種が始まるとかなり混雑することが予想されたため、院長から「その前に受診したら」と勧められ、日時を予約した上で健康診断に臨んでいた。

 まずは採尿とレントゲン撮影を済ませ、次に採血を待っていると、「ワクチン接種の予約をしたい」と、不安そうな面持ちの老婆がやってきた。採血と心電図検査を済ませて待合室に戻ってくると、別の老婆が受付窓口で「ワクチン接種の予約をしたいのですが」と尋ねている。受付の女性は、

「予約受付の開始は翌週からで、直接医院に来なくても電話で予約できる」

「希望日時は聞いておらず、接種日時はこちらで決めている。その時間に合わせて来院してもらうことになる」

と説明する。だが、老婆は納得せずに食い下がっている。新聞やテレビが繰り返し「予約が取れない」と報じているので、皆、不安でたまらないのだろう。筆者が検診を受けていたほんの30分ほどの間に、こうした老婦が3人も医院を訪れていた。

 ワクチン接種の予約を“早い者順”でやっているから「予約パニック」が発生するのである。思慮の足りない政府や官僚が、新型コロナ感染症への不安でいっぱいの国民をワクチン予約争奪競争へと走らせ、無用のパニックに陥れているとしか思えなかった。

“予約パニック”を招かない「予約」方法

 1年前にも同様の「思慮の足りない国が引き起こした事件」が発生していた。国民一人ひとりに一律10万円を支給する「特別定額給付金」である。「マイナンバーカード」を使って請求すればいち早く10万円をゲットできるとの触れ込みを信じた人々が、実際にそのようにして請求したところ、郵送で申し込んだ人よりもかえって支給が遅くなってしまう事態が続出。請求ミスも多発し、実際の請求窓口となった自治体は、そのチェック作業に追われた。そのため、自治体のなかには、混乱を防ぐために「マイナンバーカード」による請求を中止したところもあった。

 しかし、こういう時こそ「マイナンバー」の出番なのではないか。あくまでも「マイナンバー」であって、「マイナンバーカード」ではないところがミソだ。まずは“早い者順”の予約や、全国一律で一斉に行なう類いの予約方法をやめる。そのうえで「マイナンバー」を使い、感染が多発している自治体の住民へのワクチン接種を優先し、感染者が少ない自治体での接種を後回しにして、国や自治体の側で接種日時や接種場所を指定したうえで個々人に対して郵送で連絡し、その日では都合が悪い人だけが変更を申し出る「オプトアウト」方式にするのである。

 持っていない人がいまだ多数いる「マイナンバーカード」を使えば、手順が複雑になるだけなのでまったく使用せず、手順をひたすら簡略化することに努めるのである。こうするだけで、無用の「ワクチンパニック」は完全に封じることが可能だ。ワクチン接種を希望しない、あるいは体質等の理由で受けられない事情がある人は、「オプトアウト」方式なら自分でキャンセルすることができる。

 効率の悪い“早い者順”の予約方法をやめれば、嘘をついて「予約手数料」を詐取しようとする類いの犯罪も同時に防げる。今のやり方では、みすみす犯罪者に付け込まれる隙を与えているのと変わらない。

来年度のワクチン接種までにはシステムの立て直しを

 大事なのは、制度設計に確固たる「哲学」を持つことだ。「マイナンバーカード」にしても、不況に喘ぐIT大手企業に税金を大盤振る舞いすることが隠れた大義であり、真の目的だったから、まったく使い物にならないのである。その証拠に「マイナンバーカード」は、自治体や医療の現場に混乱ばかり招いているではないか。「国民の利便性」などという言い訳は、後からとってつけた方便に過ぎない。悔しければ、もっと人の世に役立つ制度設計にし直すことだ。

ワクチン接種予約パニック」の問題にしても同様である。すべての国民を新型コロナウイルスの感染から守ることを目指し、いち早いコロナ禍からの脱却を図るのなら、

「大勢の方が殺到すれば、パンクするのが見えていたため『段階的に接種券を出してください』と申し上げたが『公平性重視だ』と言って接種券を一斉に出してしまった自治体が多かった」(5月14日、衆議院内閣委員会での河野太郎・規制改革担当大臣の発言)

などと、他人のせいにしている場合ではないのである。

 なにも筆者は、ワクチン接種こそが新型コロナ対策の決め手であると考えているわけではない。すでに発生しているワクチン接種による重篤な副反応の問題が解消されない限り、本当の意味での「決め手」にはならない。

 執筆している5月16日現在、あまり報じられていないのだが、愛媛県に住む医療従事者の女性が新型コロナワクチン優先接種で2回目の接種を受けた後、吐き気や呼吸困難、心不全などを起こした果てに亡くなったという情報もある。他社による報道や続報がないので、詳細がわからないのだが、ワクチン接種の副反応で亡くなった可能性はどうも否定できそうにない。せめて、ご遺族に対するケアや補償などがきちんと実行されるよう、祈るばかりである。こうした話があるだけに、筆者の母のワクチン接種を予約したことにしても、かなり悩みながら“次善の策”として不承不承決断したことだった。

 それでも、あえてワクチン接種について肯定的な稿を起こしたのは、現状のワクチン接種のやり方があまりにもひどくて、見ていられなかったからだ。有事の際、場当たり&泥縄式に対処しようとして失敗するのは、この国の悪い癖である。先の大戦や福島第一原発事故でも、その悪い癖が繰り返されてきたのだが、新型コロナ対策でもまた、繰り返されてしまった。首相官邸や官僚の面々には猛省を促したい。

 おそらく、来年もまた、新型コロナワクチンの接種は大々的に国主導で行なわれるのであろう。もしかするとそれまでには、より安全なワクチンが開発されるかもしれない。だからこそ、ワクチン接種体制の大幅な見直しと、早急な立て直しが待たれる。来年までには、まだ相当な時間があるのだから。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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