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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国製コロナワクチン接種率が高いチリ、感染が再拡大…他国でも感染者数が減少せず

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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チリの首都サンティアゴ(「gettyimages」より)

 新型コロナウイルスに関連した世界の死者数は4月6日、300万人を超えた。死者が200万人に到達するのに1年以上かかったが、200万人から300万人に増加するのにかかった期間はわずか約3カ月だった(4月6日付ロイター)。

 一方、新型コロナワクチンの接種も進んでいる。4月7日時点の世界の接種回数は7億回に迫る勢いである。人口100人当たりの接種回数が多いのは、イスラエル(112.2)、チリ(59.6)、英国(56)、米国(50.8)だが、意外なことに各国ごとの感染状況に違いがあらわれている。

 最も成功を収めているのはイスラエルである。ワクチン接種のおかげで今年2月から段階的に制限を緩和し、飲食店などの商業施設や公共施設はほぼ正常に運営されている。ブルームバーグがまとめる「コロナ時代における最も安全な国・地域」番付でイスラエルは2月の9位から3月は5位と急浮上している。

 英国の感染状況も劇的に改善している。ジョンソン首相は5日の記者会見で「1月から続く3度目のロックダウンの一部緩和に踏み出す」と述べた。新型コロナウイルスの変異株が世界で最初に確認されるなど、英国の感染状況は欧州で最悪の時期もあったが、新規感染者数は1月の6万人超から2000人台に減少し、1日当たり1300人を超えた死者数も20人前後となった。劇的に状況が改善した理由として、ワクチン接種の順調な増加に加え、厳しいロックダウン措置が挙げられている。

 バイデン政権誕生以来、猛烈なスピードでワクチン接種が進んでいる米国だが、4月に入り再び感染が拡大する事態が懸念されている。変異株の症例が急増し、発症して入院する若者が増加しているからだ。ワクチン接種開始を理由に一部の州で制限緩和が進んでいることも気がかりである。

シノバック製ワクチンの有効性は54%

 注目すべきはチリの状況である。チリ政府は7日、新型コロナウイルスの感染状況の悪化を受け、「10日と11日に実施する予定だった制憲議会選挙と地方選挙を5週間延期する」と発表した。チリは最もワクチン接種が進んでいる国の一つだが、このところ感染が再び拡大している。その要因として指摘されているのは「制限措置の緩和が早すぎた」ということである。チリはワクチン接種率が1%未満だった1月に体育館やカジノなど一部の商業施設を再びオープンし、移動制限も緩和した。接種率が50%を超えた2月になって初めて制限措置を緩和したイスラエルとは対照的である。

 チリで接種されているワクチンの種類にも関心が集まっている。チリで接種されているワクチンの90%が中国製のシノバックワクチンであり、残り10%が米ファイザー製ワクチンである。ちなみにイスラエルで接種されているのは米ファイザー製、英国は英アストラゼネカ製、米国は米ファイザー製と米モデルナ製である。

 チリ大学の研究者らは6日、「シノバック製ワクチンの有効性は54%だった」と発表した。54%という数字は、世界保健機関が示した有効なワクチンについての最低値(50%)をやや上回る程度にすぎない。これに対し、ファイザー製やモデルナ製のワクチンの有効性は90%を超えており、アストラゼネカ製のワクチンの有効性も約80%である。

 統計サイト「アワー・ワールド・イン・データ」によれば、ワクチン接種率が20%以上と比較的高いにもかかわらず感染者数が一向に減少しない国の相当数が、中国製ワクチンを使用しているという。中国製のシノファームワクチンを主に接種しているバーレーン(接種率は約30%)、ハンガリー(約25%)、セルビア(約22%)やシノバックワクチンを主に接種しているウルグアイ(約21%)などがこれに該当する。

 ブラジルで大量に発生しているとされる変異ウイルスの影響を指摘する声もあるが、接種率が高いのに感染状況が改善しないのであれば、接種しているワクチンの有効性との関係を調べる必要があるだろう。

ADEが生じれば重症化するリスク高まる

 中国企業が開発したワクチンは、不活化ワクチンである。熱や化学物質(アンモニアなど)で不活化した(殺した)ウイルスを体内に投与して抗体をつくるという従来の製造方法である。この手法はインフルエンザワクチンなどで使用されていることから信頼性が高いとされている半面、有効性が低いとの見方がもともとあった。インフルエンザウイルスに比べて増殖のスピードが遅い新型コロナウイルスの場合、体内で発生する抗原が少なく、抗体ができにくいからである。

 欧米製ワクチンは変異株への対応を検討しているが、中国製ワクチンは変異株に対する対応を迅速に行えない可能性もある。

「アストラゼネカ製ワクチンは血栓症を起こす」と問題になっているが、ワクチン接種後の副反応で最も懸念されているのは「ADE(抗体依存性感染増強現象)」である。ワクチン接種によってつくられた抗体がウイルスの細胞への侵入を防ぐのではなく、逆に細胞への侵入を助長する現象のことである。ADEが生じれば重症化するリスクが高くなる。

 新型コロナウイルスと遺伝子情報が類似しているSARSウイルスの不活化ワクチン開発の際にADEが生じたことから、「新型コロナウイルスの不活化ワクチンでも同様の問題が起きる」ことを懸念する専門家は少なくない。中国製ワクチンは、「感染防止」に役立たないばかりか、ADEのリスクが高まる危険な代物なのかもしれない。

 新型コロナウイルスのワクチン不足が世界的に高まる中、中国は国内の感染者数が少ないという利点をいかしてワクチン輸出の攻勢に拍車をかけているが、はたして大丈夫なのだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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