英国の南部ソールズベリーで、ロシア人元スパイが神経性毒物で襲われた奇怪な事件。「ロシアの犯行」と認識する英独仏の西欧3カ国を中心に欧米の計27カ国とNATOが3月末までに、ロシア外交官計150人を国外追放、これに対抗してロシアも同規模の報復制裁で応じる事態に発展した。
英独仏3カ国はなぜ、それほどこの事件にこだわるのか。犯行に使われた毒物はロシアが開発した化学兵器とみられるが、ロシアの「刺客」が使用した証拠はあるのかどうか。さらに、ロシアと欧米の報復合戦はどこまで拡大するのか。
事件は今年ロシアで開催されるサッカーW杯に悪影響を及ぼす恐れもあり、世界情勢は緊張の度を増す可能性が大きい。
自由主義を守る戦い
英独仏の3カ国が今度の事件で簡単に妥協しない理由は明らかだ。ロシアのプーチン政権は、米国だけでなく、独仏の国内選挙にも介入して「分断」を演出、同時に今度のような特殊かつ希少な毒物を使用してロシアから西欧への移民に危害を与え、恐怖感を煽る作戦だったことは明らかだ。
昨年の独仏の選挙への介入は異常だった。ロシアは、フランスの大統領選挙では「国民戦線」、ドイツ総選挙では「ドイツのための選択肢」といずれも極右政党を支持、政権与党を苦しめた。ロシアが両国の政治家に資金援助した疑いが持たれている。現在ロシア系の複数の企業の役員を務めるゲアハルト・シュレーダー元ドイツ首相は、親ロ派政治家としてプーチン政権に利用されているようだ。
他方ギリシャでは、ロシアは左派与党と右派の連立を支持、オーストリアでは、連立政権を形成する極右の自由党を支持し、反自由主義勢力にテコ入れしている。
この事件が起きる前から、メイ英、メルケル独両首相とマクロン仏大統領は、欧州諸国内政への「ロシアの干渉の危険性」で一致していた。これら3カ国首脳は、自由主義を守る闘いの先頭に立っており、こうした事件をあやふやなかたちで終わらせないだろう。
続発する亡命者暗殺
英国は、ロシアから国外追放処分などを受けた元軍人やスパイ、実業家らが身を寄せる「巣」のような場所になっている。だが同時に、彼らの動向を監視する連邦保安庁(FSB)や対外情報庁(SVR)、参謀本部情報総局(GRU)の要員も集まっている。