大雪には弱い東京だが、大雨には強いはずではなかったのか――。
スーパー台風が上陸すれば東京23区の3割が浸水するという、東京都港湾局の発表を聞いた時に、筆者はそう思った。地下40メートルまで下り、「溜池幹線」を見たことがある。直径8メートルほどのその巨大トンネルが、どんな豪雨でものみ込んでくれると信じていた。過去に何度か氾濫したことのある、神田川沿いのマンションに筆者は住んでいる。氾濫時のためのブザーが部屋にはあり、マンション入り口には高さ1メートルほどの防水板が備え付けられている。だが台風が来ても使われたことはないため、「無用の長物」と思っている住人も多い。
東京都港湾局に聞いたところ、発生する浸水は台風の大雨によるものではないという。3月30日に同局から発表されたのは、「想定し得る最大規模の高潮による浸水想定区域図」。浸水は、台風による大雨ではなく、高潮によって起こるのだ。高潮とは、台風や発達した低気圧が通過するとき、潮位(海水面)が大きく上昇する現象だ。
その1つは、「気圧低下による吸い上げ効果」によって起こる。それはどういうものか。
「台風や低気圧の中心では気圧が周辺より低いため、気圧の高い周辺の空気は海水を押 し下げ、中心付近の空気が海水を吸い上げるように作用する結果、海面が上昇します。 気圧が1ヘクトパスカル下がると、 潮位は約1センチメートル上昇すると言われています」(港湾局の発表資料より)
もう1つ、「風による吹き寄せ効果」によって起こる。
「台風や低気圧に伴う強い風が沖から海岸に向かって吹くと、海水は海岸に吹き寄せら れ、海岸付近の海面が上昇します。この効果による潮位の上昇は風速の2乗 に比例し、風速が2倍になれば海面上昇は4倍になります」(同)
台風が襲来すれば、この2つが複合的に起こる。今回発表された浸水想定区域図は、日本に上陸した最大規模の昭和9年の室戸台風を基本としている。同台風の気圧は、910ヘクトパスカルであった。最悪の事態を想定し、潮位が一定の条件に達した段階で、堤防は決壊、浸水した水を排除する施設(排水機場等)が機能停止することを見込んで、想定区域図はつくられている。