宮司が社員数3700人の企業とJリーグチームを経営 地域活性のあるべき姿を探る
6月3日、東京都内のホテルに約1000人の人々が駆けつけ、「第11回渋沢栄一賞」を受賞した宮司さんを祝った。渋沢栄一氏といえば、「日本資本主義の父」と呼ばれた我が国を代表する実業家である。なぜ、宮司さんと関係があるのか、と不思議に思う人も多いことだろう。
この宮司さんの名は池田弘(いけだ・ひろむ)氏。ただの宮司さんではない。新潟県を中心に大学院、大学、専門学校など31の教育機関(学生数約1万3,000人)や医療福祉機関などを展開するNSGグループを創業した実業家の顔も持つ。今や、同グループは19法人を数え、社員・職員数が3700人となった。また、1996年には、プロサッカーチーム「アルビレックス新潟」を設立し会長に就任。地域密着型のビジネスモデルを導入し、観客動員数トップクラスの人気チームに育て上げ、J1昇格へと導いた。おまけに、「新潟賛歌」なる曲で歌手デビューも果たした。
30年来の付き合いがあるという日本総合研究所会長の多摩大学名誉学長・野田一夫氏は、「起業家には苦労が顔に出ている人が多いが、彼は今も初めて会ったときと変わらず天真爛漫だ」と池田氏を評する。
新潟以外の地に住んでいる人、同じ業界に関係している人でなければ、池田氏の名前は知らないかもしれない。しかし、池田氏だけでなく、地方都市には天真爛漫なオーナー経営者が多い。地方に元気がない、と言われるが、それは経済、地域についての話であり、人に活力がないわけではない。渋沢栄一氏が活躍した明治期の日本がそうであったように、経営資源が乏しい現在の地方でも、人という成長性の高い財産は存在する。
池田氏は宮司さんになりたての頃、「神社の将来」に危機感を覚え、神社後継者の仲間たちと日々議論をしていた。神社は地域あっての仕事。今風にいうと、利潤よりも社会貢献を優先する「ソーシャルビジネス」である。その概念を基本に、地域社会に貢献する事業を相次いで起こした。現在は、その経験を生かし、ニュービジネス協議会連合会長、新潟経済同友会筆頭代表幹事として、地域を活性化する起業家の育成に取り組んでいる。
渋沢栄一氏は500社もの多種多様な企業を育成した。池田氏は、渋沢氏に見習い、挑戦している。渋沢氏より1社でも多くの企業を上場させたいという思いを込めて名付けた起業家支援組織「異業種交流会501」を立ち上げた。すでに設立10年を越え、会員数は106社になり、そのうちの3社が株式公開を果たした。
「地方の発展なくして日本の発展はない。地方の個性を活かした自律的な地域経済活性化を実現する」
受賞に際して池田氏はこう述べた。
「中央からの補助金に依存し、大企業の工場進出に頼ってきた地方の経済は、政府の財政難と経済のグローバル化に伴う工場の海外移転により、すっかり疲弊してしまった。今こそ地方から声を上げ、自律的な地域経済の活性化に向け、一歩を踏み出すべきだ」
●地方がベンチャーを育成する仕組み
そこで池田氏が提案しているのが、地方に「総合ベンチャー特区」を設置し、ベンチャー創出のプラットフォームを構築する政策だ。具体的には、エンジェル税制を緩和・拡大し、特に地域密着型オーナー企業を中心としたエンジェルファンド(通称“旦那ファンド”)にも適用できるようにする。そして、地域に根を張るオーナー経営者たちがメンターとなり、リスクマネーを提供。その上で、地方金融機関や政府・自治体、民間ファンドが資金・人材・情報をネットワークしサポートする。また投資の出口として、地域版グリーンシート市場も開設し、ベンチャー企業を育成するプラットフォームを構築するというもの。
このような政策を通じ、単なる地域のための地域の企業にとどまらず、池田氏は「地方発のグローバル企業、グローバル人材を育成すべきだ」と主張する。
渋沢栄一氏も、困窮した幕臣の救済を図るため、静岡にて商法会所(官民の出資した合本組織)を設立し、それが明治維新の殖産興業の端緒となった。