香川県が制定した「ネット・ゲーム依存症対策条例」は憲法違反だとして、高松市出身の男子大学生とその母親が県に計160万円の損害賠償を求めている訴訟に関する記事『ゲーム条例訴訟「依存症は予防が必要」 原告主張に県反論 地裁口答弁論 /香川』(6月15日付)に関し、毎日新聞社は28日、以下のような誤りがあったとして訂正した。
「この記事の表で、人権侵害の有無について被告(県)の主張が『そもそも幸福追求権などは基本的人権とは言えず』とあるのは『原告らが指摘する、子のゲームの時間やスマートフォン利用の可否、時間を決定する自由や、eスポーツを楽しむことなどは基本的人権とは言えず』の誤りでした」
同記事中では、原告の男子大学生と被告香川県の双方の主張をまとめた図表が掲載されていて、香川県の主張として「幸福追求権は基本的人権とは言えず、人権侵害はない」と記述していた。
日本国憲法第13条を踏まえた「幸福追求権」は、法曹関係者の間では「基本的な人権に含まれている」との見解が多い。このため、上記同報道はTwitter上などで注目され、香川県の見識を問う声が上がっていた。
香川県は「報道にあるような主張は一切していない」
当編集部は24日、香川県健康福祉部子ども政策推進局子ども政策課に、同裁判で県およびその代理人が、毎日新聞の報道にあるような主張をしているのかを問い合わせたところ、以下のような回答があった。
「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の訴訟に関する報道について、現在訴訟中のため、詳細はお答えできませんが、県は、『幸福追求権は基本的人権とは言えない』という主張は一切しておりません。
また、憲法第13条は、『幸福追求に対する国民の権利』等につき『最大の尊重を必要とする。』と規定し、『幸福追求権』を明文で保障しているものと承知しております。なお、この記事の内容につきましては、記事を掲載した毎日新聞にお問い合わせください」(原文ママ)
上記の回答を踏まえ、毎日新聞側に香川県側の指摘を伝え、見解を求めたところ、毎日新聞社社長室の広報担当者から28日、前出のように記事を訂正する旨の連絡と合わせて、次のような回答があった。
「ご指摘を受け、社内で改めて確認した結果、誤りであることが判明したため、28日にウェブサイトに訂正記事を掲載しました。29日付香川面にも訂正記事を掲載します」
今回の毎日新聞の記事で焦点となっていた「幸福追求権」と今回の「ネット・ゲーム依存症対策条例」違憲裁判に関して、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように解説した。
山岸弁護士の見解
まず「幸福追求権」が憲法13条から導かれる権利であることは、幾多の判例でも認められていることであり、法曹家(裁判官、検察官、弁護士、法学部の学者等)において、「幸福追求権が基本的人権ではない」と考えている者は皆無です。
もっとも、「ある権利」が、憲法第14条以下に列挙されなかった(憲法制定当時には考えられなかった)権利としての「幸福追求権」に含まれるかどうかは、その「ある権利」が国民に浸透している権利なのか、人格的利益の核心部分と言えるかどうか、など難しい議論が必要です。
議論は学者にまかせるとして、とはいえ「ゲーム・スマホをする権利」は、それがその人の人格を形成する上で必要不可欠とは思えないので、到底、「幸福追求権」としては認められないでしょう。
(文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)