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江川紹子の「事件ウオッチ」第105回

「真相究明」「再発防止」を掲げる「オウム事件真相究明の会」への大いなる違和感

文=江川紹子/ジャーナリスト

 このように、彼は真実を語る機会があっても、常に保身をはかり、事実と向き合わず、責任を弟子に押し付ける態度を続けてきた。この事実を無視してはならない。同会の人たちは、何を根拠に、彼が自発的に「真相」を語るようになる、と言うのだろうか。

カルト事件の「再発防止」に必要なのは

 呼びかけ人の雨宮処凛氏は、「麻原に本当のことをしゃべらせよう」と言う。そんなお気軽な物言いはやめてもらいたい。麻原の弁護人や検察官、裁判官だけでなく、かつての弟子たちが、全身全霊をかけて語りかけ、血がほとばしるように説得をしても、彼は頑強に真実を語ることを拒んだのだ。

 地下鉄サリン事件が起きて3年後に、雨宮氏は「オウムへのシンパシー」を問われて、「ムチャクチャありますよ。サリン事件があったときなんか、入りたかった。『地下鉄サリン、万歳!』とか思いませんでしたか? 私はすごく、歓喜を叫びましたね。『やってくれたぞ!』って」と答えたという(ニュースサイト「TABLO」内の吉田豪氏による連載『ボクがこれをRTした理由』より)。今は、さすがに「地下鉄サリン、万歳」とは言わないだろうが、それでも捜査機関を出し抜き、社会を混乱させたオウムに、何かしらの「シンパシー」が残っているのではないか。

 また、同会は「再発防止のためにこそ、真相究明は必要なのだ」と主張する。精いっぱい好意的に評したとしても、カルトの問題がまったくわかっていないと言わざるをえない。むしろ、欺瞞的な臭いを感じる。

 カルト集団は、古今東西を問わずに出現する。その集団を支配する者や活動・組織の態様はさまざまだ。統一教会のようにキリスト教を使った宗教集団もあれば、いわゆる「イスラム国」などのように、宗教と政治的な意図が一緒になった勢力もある。日本の過激派は政治的カルトと言えるだろうし、最近は前回の本欄で報告したようなネットを利用したカルト性の高い活動も出ている(歪んだ正義感はなぜ生まれたのか…弁護士への大量懲戒請求にみる“カルト性”)。そのリーダーや組織・活動の態様は違うが、信者や追随者のほうに注目すると、さまざまな類似点が見られる。

 なので、オウムのようなカルト事件の「再発防止」のために必要なのは、教祖の心の内を探るより、信者たちがいかにして教団に引き寄せられ、どのようにして心を支配され、犯罪の指示にも唯々諾々と従ってしまったのかを知ることだ。彼らの心理状態を解明し、いかなる防止策が考えられ、どの段階でどのようなサポートが有効なのかを研究することは、「再発防止」のために肝要といえる。

 つまり、「再発防止」のために死刑回避を、と主張するならば、その対象は教祖である麻原ではなく、弟子たちであるべきだ。12人の元弟子のなかには、深い反省悔悟の中にある者もいる。彼らに対して恩赦を施し、無期懲役に減じて生涯仮釈放を行わず、獄の中でもっぱら「再発防止」のための調査研究に協力させるなど、社会に奉仕させるという道は、大いに検討してよいと思う。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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