ところが、この「真相究明の会」は、麻原の死刑回避ばかりを求め、元弟子たちの処遇には関心を寄せない。そんな人たちが言う「再発防止」とは何なのだろう。察するに、「再発防止」の看板を掲げておけば、事情を知らない人がうっかり賛同するかもしれないという狙いがあるのではないか。結局のところ、彼らの「再発防止」は、悪徳商法のキャッチフレーズにも等しいように見える。
オウムの後継団体であるアレフは、勧誘活動などの折に、一連の事件を「でっち上げ」などと語っている。今回のように、少なからぬ著名人が死刑執行に反対して記者会見まで開いた事実は、そうした教団の勧誘活動や信者の結束力を高めるのに利用されるだろう。その影響力は、死刑が執行された後にも残る。「◯◯さんも、△△さんも反対していたのに執行された。これは国家の弾圧だ。闇の勢力の陰謀だ」などという陰謀論を支えることになるからだ。著名人の利用は、オウム初期から彼らの得意技である。自分たちが教団の勢力回復に貢献してしまうリスクについて、「真相究明の会」の方々があまりに無自覚なことに驚く。
彼らは、地下鉄サリン事件が起きるまでの間に、メディアや知識人がオウムの増長に貢献してしまった事実から、何も学んでいないのだろう。たとえば、『朝まで生テレビ』(テレビ朝日系)では、オウムと幸福の科学をスタジオに招いて、この2団体のどっちがまともに見えるかを競わせる番組を放送した。オウム側は、これを布教宣伝の好機と捉え、麻原をはじめとする幹部が揃って出演し、言いたい放題。これを見て、オウムに興味を持ち、入信してしまった者もいる。この番組の看板司会者である田原総一朗氏は、「真相究明の会」の呼びかけ人となり、発足記者会見にも登場した。過去に対する反省や教訓の学びがまったくないらしい。
ナチスによるホロコーストや関東大震災時の朝鮮人虐殺を否認するなどの、いわゆる歴史否定主義は、時の経過による記憶の風化と、事実軽視の風潮、そして一部の人たちの願望から生まれる。今回の動きを見ていると、オウム事件も、そうした心配をしなければならない段階に入ったようだ。
このような状況だからなおのこと、すべてのオウム事件の裁判記録は永久保存にして、必要な人がちゃんとアクセスできるようにして、虚偽の流布、歴史否定の言説を防ぐようにしなければならないと、改めて思う。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)