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法社会学者・河合幹雄の「法“痴”国家ニッポン」第17回

赤木ファイルは「時限爆弾」…識者が語る、森友問題と安倍晋三、政官財“本当の癒着構造”

法社会学者・河合幹雄
「カジノ日本導入」に見え隠れする20兆円の巨大パチンコ産業…「外圧に負けて」のまやかしの画像1

 安倍前政権を大きく揺るがせた財務省決裁文書改ざん問題。そしてその火種となった森友問題は、2021年6月22日に開示された「赤木ファイル」によって新たな動きを見せている。

 学校法人「森友学園」に対し2016年6月、評価額9億5600万円の国有地(大阪府豊中市)が、約8億円引きの1億3400万円で払い下げられたことに端を発する森友問題。2017年に毎日新聞に報じられたことによって明るみに出たこの問題は、安倍晋三総理(当時)とその妻・昭恵氏が、学園理事長の籠池泰典氏に有利になるよう財務省に影響を及ぼしたのではないかという疑惑を生み、結果として国会で大きく取り沙汰されることとなっていく。

 そして2017年2月。衆議院予算委員会にて安倍氏は、「私や妻が関係していたら首相も国会議員も辞める」と答弁。この発言を「忖度」した財務省側は、払い下げの経緯を記した決裁済文書を改ざんし、安倍氏や昭恵氏に関する記載を削除した――。

 この改ざんに関与させられ、そのストレスもあって2018年3月に自殺した財務省近畿財務局の赤木俊夫氏(享年54歳)は、財務省本省の理財局と近畿財務局の職員がやり取りした約40通のメールや、改ざん箇所に印をつけた元の決裁文書などを時系列で整理していた。これがいわゆる「赤木ファイル」である。

 この「赤木ファイル」はその後、赤木氏という自殺者さえ出した「森友学園問題」の、そしてこの問題を生んだ安倍政権の、さらには自民党政治の“腐敗の象徴”としてメディアの批判の対象となっていく。

 しかし同時に森友問題は、その後次々と巻き起こった加計学園の獣医学部新設問題、桜を見る会問題、黒川弘務東京高検検事長(当時)の賭け麻雀事件といった数々の疑惑・事件に覆われ、真相をつかむのはもはや容易ではない。

 これに対し、法社会学者で桐蔭横浜大学法学部教授の河合幹雄氏は、「森友問題それ自体は、戦後脈々と続いてきた政・官・財の癒着構造を背景にした怪しい土地払い下げ事件の典型例にすぎない。そして赤木ファイルは、それを世に知らしめるための“時限爆弾”なのだ」と語る。

 その発言の意味とは? 森友問題とはいったいなんだったのか? 「赤木ファイル」はなぜ作成され、森友問題においてどのような意味を持つのか?

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2017年1月に撮影された、大阪府豊中市に当時建設中であった「瑞穂の国記念小学校」。森友学園が開校を目指していた。(写真はGetty Imagesより)

森友問題にからむのは安倍晋三前首相だけであり、その意味において「安倍晋三記念小学校問題」である

――赤木氏が遺した手記には、森友問題について「これまで経験したことがないほど異例な事案」と記されています。そもそも、「赤木ファイル」の原因となった森友問題とはなんだったのでしょうか?

河合幹雄 ことの起こりは、籠池泰典氏が小学校用地のための国有地払い下げに際して、許認可の便宜や格安での用地提供を受けるために安倍晋三夫妻に取り入ったことです。そしてその後、安倍氏夫妻と籠池氏の関係を“慮った”近畿財務局の動きがあり、籠池氏は狙い通り、国有地を格安で購入することができました。ということは、森友問題において登場する政治家は安倍氏のみであり、他の議員や自民党は関係していません。つまり森友問題とは「安倍晋三記念小学校問題」であり、安倍氏にのみピンポイントに絡むスキャンダルだといえるでしょう。

 ゆえに、森友問題で窮地に立たされるのは安倍氏だけです。ということは、程度の差こそあるものの、反安倍勢力にとって森友問題は、「安倍再々登板阻止」のための重要カードだといえる。それは、政権与党である自民党のなかにおいても同じことです。たとえば、安倍氏の後継のような形で総理に就任した菅義偉氏にしても、安倍氏が再び総理に返り咲けば自分のポストはもうないでしょうから、安倍政権時代と違って、森友問題を必死になって抑え込む必要はありません。

 安倍氏の再々登板に絡むそういった思惑に加え、今年の秋までには任期満了に伴う衆議院議員選挙が必ず行われます。選挙に近いタイミングで「赤木ファイル」が開示されればさすがに自民党にもダメージがあるので、早めに開示してほとぼりを冷ましておきたい。しかし国会で野党に追及の材料は与えたくない……。

 そうしたさまざまな思惑が重なったからこそ「赤木ファイル」は、通常国会閉会わずか6日後という今回のタイミングで開示されたのでしょう。そういう意味では、このタイミングだっというのは必然ともいえる。このように時系列で捉えると、森友問題における「赤木ファイル」の位置づけがよくおわかりいただけるかと思います。

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2020年1月20日、通常国会初日に語らう安倍晋三首相(当時)と麻生太郎財務相(写真はGetty Imagesより)

「赤木ファイル」は、赤木俊夫氏が決死の覚悟でしかけた、安倍晋三前首相に対する“時限爆弾”ではなかったか

――日本政治史が専門で、「オーラルヒストリー」の第一人者でもある東京大学名誉教授の御厨貴氏も朝日新聞のインタビュー(2021年7月6日配信『未完の最長政権』)において、「菅さんはあまり個性のある人じゃないから全て継承すると思っていましたが、実際は安倍政治との断絶でした」とも語っていますね。

 安倍氏から菅氏へと政権が交代し、前内閣総理大臣補佐官の今井尚哉氏をはじめとする安倍氏の側近官僚も入れ替わるなど、安倍氏のスキャンダルに対する抑えが弱まるなかで「赤木ファイル」が開示されたのは、政局としてきわめて自然なことだということですね。では、「赤木ファイル」そのものについてはどう考えればよいのでしょうか?

河合幹雄 いわゆる「赤木ファイル」は、決裁済文書の改ざんに関与させられた近畿財務局の赤木俊夫氏が、その改ざん過程を詳細に残したメモです。役所で使われる文書は、たとえヒラの役人が作成したメモであっても「公用文書」として取り扱われ、破棄すると犯罪になります(刑法258条、公用文書等毀棄罪)。そんなリスクを負ってまで「赤木ファイル」を破棄することなど、さすがの“忖度官僚”でもできるわけがない。上のほうからどうしても破棄しろと言われれば、自分は命令通りやっただけという形を整えるために、「破棄命令を文書でくださいよ」という話にさえなります。しかしそれこそ、さすがの忖度官僚にも絶対にできないこと。だからこそ「赤木ファイル」は、「破棄した」のではなく「見つからない」と言われ続けていたのでしょう。

――しかし、だとすれば赤木氏は、「破棄されるわけはない」と、そこまで考えたうえであのファイルを残したということでしょうか?

河合幹雄 赤木氏が心情を刻み、遺した手記のほうはともかく、「赤木ファイル」のほうは単なる職務上の恨みや執念から作成されたファイルではないと思います。「この文書改ざんをただしたい」という思いを踏まえ、のちに省内の賛同者が必ず発見し、受け継いでくれると確信して作成されたファイルであり、となれば安倍氏にとって「赤木ファイル」は、いつか必ず爆発する“時限爆弾”であるといえるでしょう。

森友問題が踏襲した、土地開発における典型的な「政・官・財の癒着構造」

――では、森友問題をどう見るかについてです。先生の見立てによれば森友問題は、何も特殊な事件ではなく、その根本にあるのは政・官・財の癒着構造であり、戦後脈々とこの国で続いてきた「土地開発事案」の一例にすぎないとのことですが。

河合幹雄 先述した通り森友問題の構造を考えてみると、安倍氏夫妻と気脈を通じた籠池氏が、自身が小学校を設立するにあたり、許認可の便宜を図ってもらうとともに、格安で用地の提供を受けた……というものですよね。国から用地を格安で売却してもらうために、「地中に廃棄物が埋まっているほか、土壌も汚染されているので、その費用分を値引きしますね」というロジックが持ち出されたわけです。こうした“ちょうどよい”理由のもとに土地を格安で売却するという構図は、土地開発において戦後脈々と続いてきた、政治家・公務員・業者の癒着構造そのものなんですよ。

 たとえば、ある地方でパチンコ店を開店する、なんていう場合を考えてみましょうか。

“郊外型のロードサイド”なんてものが出現するはるか前から、田舎ではパチンコ店は駅前ではなく、幹線道路沿いに出店されるものでした。コミュニティの狭い田舎では、駅前では誰が見ているかわからないので、クルマでこっそり行ける国道沿いなどのほうが、遊技場や風俗店は繁盛するものなのです。

 さて、そうなるとまずは、広くて安い国道沿いの農地を買収して、パチンコ店を開店したいところです。しかし、農地のままではパチンコ店を作ることができません。土地使用に関して規制があるからです。そこでパチンコ業者はどうするか? 地元自治体の議員に献金します。するとその議員は地元の役所の公務員に頼んで、土地の転用許可や市街化区域の指定を行わせます。こうして、農地はパチンコ業者に売却され、その土地はパチンコ屋が営業できる土地へと変身し、あら不思議、無事に国道沿いにパチンコ店が開店する――。これが、最も典型的な政治家・公務員・業者の癒着の構造ですね。

 ほかにも、あるエリアの住居地域が商業地域に変更されれば、建ぺい率や容積率の規制も緩和され、大きな建物が建築可能になり、地価が高騰しますよね。となると、用途地域の変更予定が“あらかじめ”わかっていれば、その土地が二束三文のうちに取得しておけば、それだけで大儲かり。まさに錬金術そのものですが、これも典型的なパターンです。

福島第一原発の土地開発に一枚噛んだ、堤義明率いるコクド、のちの西武グループ

河合幹雄 かように、なんでもない土地を開発に絡ませて儲ける天才だったのが、かの田中角栄氏でしょう。

 1969年から1970年にかけて、信濃川を挟んで新潟県長岡市の中心部である長岡駅前一帯の対岸にあった原野(現在の長岡市千秋一帯)を田中氏のファミリー企業である室町産業が購入し、その直後に、両エリアを結ぶ長岡大橋が架かりました。もともとは河川敷だったこともあり、「どうせ水につかる土地」とかなり安く買い占めたそうですが、橋が完成したあとの地価は、1000倍になったともいわれるほど。

 こうした一連の手法を暴いた人物こそ、先日亡くなったジャーナリストの立花隆氏。彼の名を一躍世に知らしめた特集記事「田中角栄研究 その金脈と人脈」(雑誌「文藝春秋」にて1974年に掲載)は、こうして「田中金脈問題」をあらわにしました。田中氏はほかにも、ダム用地開発、霞ヶ浦埋め立てなど、「日本列島改造論」の御旗のもとで、こうしたさまざまな土地開発に携わりました。もちろんこの手法によって実際に“開発”が進んだこともまた事実ではあるのですが、そこには、こうした“金権政治”が横たわっているわけです。

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1985年に刊行された立花隆の著作『田中角栄 新金脈研究』(朝日文庫、現在は廃刊)

 震災後、いまだに大きな問題であり続けている“フクイチ”の土地開発に絡んだ人物として知られるのは、のちの西武グループを率いた、かの堤一族です。

 福島第一原子力発電所の用地も、東京電力が直接農家から買い上げたものばかりではなく、3割程度は「国土計画株式会社」から取得されているんですよ。国土計画といえば西武グループの源流であり、あの“西武王国の帝王”堤義明氏が君臨した企業です。西武鉄道やプリンスホテルも、この国土計画の支配下にありました。国土計画は「国土計画興業」や「コクド」など数回にわたって社名を変更していますが、この社名からして、まさに「国策と一体となった開発を行う」という意気込みが表れていますよね。

 なにより、国土計画(当時は箱根土地株式会社)を創業した、堤義明氏の父・堤康次郎氏(1889〜1964年)こそ、まさにこうした手法を縦横無尽に駆使した類まれなる実業家であるとともに、第44代衆議院議長(1953〜1954年)さえ務めた超大物です。康次郎氏といえば戦後、皇籍離脱などによって資産の切り売りを余儀なくされた旧宮家から土地を大規模に安く買い上げ、プリンスホテルを開業したことは特に知られていますよね。そのほか、箱根や軽井沢において、鉄道を敷設するなどした上で、地域全体の面的な発展を視野に入れた開発を行ったことでも有名でしょう。

 こうした手法はまさに日本の戦後における観光・レジャー産業のモデルケースともいえ、高度経済成長に大きく貢献したという見方もできますが、いずれにせよ国策と密接な結びつきがあるのは疑いのない事実です。

 かように、地方自治体からの土地払い下げや都市計画に絡んだ政治家・公務員・業者の癒着構造というものは、戦後脈々と続いてきたのであって、その文脈でいえば、森友問題もまたその一例にすぎないといえるわけですね。

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堤義明の異母兄にして、セゾングループ代表などを務めた堤清二へのインタビューを中心に編まれた児玉博の著作『堤清二 罪と業〜最後の「告白」〜』(文春文庫)。父・堤康次郎を中心とした“異常な家庭”に対する堤清二の内面の葛藤が告白されている。

かつて大阪市役所で支給されていた、「官服」という名の高級スーツ

――ちなみにこの政・官・財の癒着構造のなかで、公務員には直接的な金銭的メリットがあるようには見えません。退職後の天下りでしょうか?

河合幹雄 もちろんそれもあります。確かに大儲けした業者の側も、政治家への献金ならともかく、公務員に対して直接お金は渡せませんからね。しかし、現役時代にも十分おいしい思いをできるんです。それは、政治家からの覚えがめでたくなり、結果として重用される、ということ。出世できるわけですから、これは大きいでしょう。

 それから、役所のなかでそういった癒着構造がなかば公然の秘密となっているような自治体では、「給与の引き上げ」「給与補助」などといった形で、一部の者ではなくその自治体の公務員全体に還元されることもあります。自治体で公務員の給与を引き上げるには条例の改正が必要ですが、政治家と公務員の間に持ちつ持たれつの関係があれば、議案も簡単に通るでしょう。公務員の給与水準と癒着の程度には、正の相関があるとさえいえるかもしれません。

 地方では、平均世帯年収が500万円もないようなエリアで、その自治体の公務員夫婦の世帯年収だけ1000万円を超える、なんて自治体はざらにある。驚くべきことです。関西地方もこの傾向が強いエリアのひとつで、例えばかつて大阪市役所では、「官服」という名目で職員に高級スーツが支給されていました。これも、典型的な「公務員全体への還元策」でしょう。だからこそ、その癒着構造に直接的には関与していない同僚も、見て見ぬフリをしてくれるわけです。

――なるほど。小学校用地を安く手に入れて建設費用を抑えたい森友学園の籠池氏が、「学校名を安倍晋三記念小学校にしたい」「昭恵氏に名誉校長に就任してほしい」といった甘言を弄して安倍氏夫妻に取り入る。安倍氏は財務省に「忖度」させ、格安で国有地を払い下げさせる。財務省の官僚はその後の国会答弁での立ち回りも含めうまくやれば、論功行賞で国税庁長官などに栄転する……。

 こうした森友事件の構造は、細部の違いはあれど戦後脈々と続いてきた、土地にまつわる政・官・財の癒着構造と同一なのだということがよくわかります。

首相にまで上りつめ、おごり、やりすぎ、そしてロッキード事件で“刺された”田中角栄

――しかしそうすると、なぜ今回の森友問題はここまで耳目を集める結果となってしまったのでしょうか? 程度の差こそあれ「よくあること」なのであれば、スルーされてもよかったようにも思われるのですが。

 森友問題は安倍氏の退任後はもとより、彼の総理在任中からも大きな批判の的であったわけですが、構造自体はそうした伝統的な癒着構造と同一であると。ましてや政権中枢に権力を集中させ、官邸主導で政権運営を進めた「安倍一強」体制にあって、なぜこの森友問題のみが表に出てきて、ここまでの大問題になってしまったのか……?

河合幹雄 まさにいまおっしゃった「程度の差こそあれ」がポイントなのです。つまり安倍氏は、“やりすぎた”。「安倍一強」体制下で慢心して油断がすぎ、周りの者も「さすがにこれはやりすぎやで」と思わされるほどになった、ということでしょうね。

 日本社会の病理であり、一方で戦後の高度経済成長の大きな駆動力ともなってきた政・官・財の癒着構造は、関与するこの三者間に「あうんの呼吸」がうまく発揮されることが肝要です。ただ単にズブズブなのではなく、そこにはそれぞれ微妙に異なる三者の思惑や行動様式があるわけで、目立ちすぎて癒着構造そのものが崩壊してしまっては元も子もない。ゆえにそこには、ある種の緊張関係も存在するわけです。

 こうした関係性のなか、露骨すぎる政・財の利益誘導に対しては、官僚サイドの検察が動くそぶりを見せ、その萌芽が見えると政治家は、刑事事件になる前に引退する……といった「あうんの呼吸」。このバランスが、政・官・財の癒着構造を、これだけの間生き永らえさせてきた、ともいえるでしょう。

 検察も検察で、単に違法行為を取り締まるだけではない。たとえば政・官・財の癒着構造によって地方の開発が進み、経済が活性化するのであればひとまず“泳がせて”おく、しかるのちに、政治家の我田引水ぶりが目に余れば、うまいことメディアに情報をリークして、場合によっては東京地検特捜部などを動かし、私腹を肥やした者たちに忍び寄る。もちろん、そうした“お目こぼし”と引き換えに、検察人事や組織の論理に口を出させない、あるいは検察サイドがやりたい法案を通させる……といったこともある。これもまた「あうんの呼吸」、バランス感覚の発露なわけですね。

 そのひとつの象徴が、先にも挙げた田中角栄でしょうね。田中角栄は、1972年には首相に上りつめ、日本各地の高速道路や新幹線の整備にメドをつけ、外交では日中国交正常化を成し遂げソ連を訪問するなどの成果をあげたあと、1976年に表面化したロッキード事件で結果として葬り去られた。つまり彼は、“やりすぎた”のでしょう。

黒川弘務・東京高検検事長(当時)の賭け麻雀は、ほとんど“自爆テロ”だったのではないか

河合幹雄 そして安倍晋三前首相です。

 官邸主導で長期化した「安倍一強」体制は、おそらくはこうしたあうんの呼吸、バランス感覚を失い、暴走寸前だった。官僚人事をほしいままにし、あまつさえ歴代政権が法務省や検察の意向を尊重し、暗黙の了解のうちに手出しを控えていた検察人事へさえ介入しようとした。

 安倍前首相は検察さえも意のままに動かそうと、「官邸の守護神」とも称された黒川弘務・東京高検検事長(当時)を、検察官の定年延長という“ウルトラC”によって、検察トップたる検事総長に強引に据えようと企みました。しかし黒川氏は、そうした官邸の横紙破りによって検事総長に就任しても、検察組織のなかで苦しい立場に置かれることを理解していたのでしょう。実際問題、自身の司法修習の同期で、のちに検事総長となる林真琴・名古屋高検検事長(当時)のほうが人望があることをわかっていたのかもしれない(笑)。だからこそ、緊急事態宣言下での賭け麻雀という、ほとんど“自爆テロ”のようなやり方で検事総長就任を回避したかのように私には思われます。たとえ不起訴になったとしても、賭け麻雀が報道された時点で検事総長の可能性は潰えますからね。

 とにもかくにも森友問題は、そうした安倍一強体制のおごりと油断から生じた“やりすぎ”への反動が表面化したもののひとつだといえると思いますね。

 足元ではこのコロナ禍において、1990年代以降の行政改革によって保健所が“減らされすぎた”ことがコロナ禍拡大の一因にもなったのだ……といったような形で、「公務員はおごっている」「公務員を減らせ」といったたぐいの公務員批判には、いまや否定的な風潮が強くなっています。

 しかし一方で、これまで見てきた通り、森友問題の背景にある政・官・財の癒着構造はいまだ根深く日本社会にはびこっています。森友問題や「赤木ファイル」は、表層的な部分ばかりが取り沙汰されていますが、とりわけ大手マスコミにはこうした日本社会の病理ともいうべき根本問題を深く調査し、その功罪をしっかりと報道することが求められるのではないでしょうか。

「家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、財務省理財局です」

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 この事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。
 事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。
 今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。(55才の春を迎えることができない儚さと怖さ)
 家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です。
 私の大好きな義母さん、謝っても、気が狂うほどの怖さと、辛さこんな人生って何?
 兄、甥っ子、そして実父、みんなに迷惑をおかけしました。
さようなら

(赤木俊夫氏の手記より引用)
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「赤木ファイル」を遺した赤木俊夫氏は、利権構造と政権の動きのなかに知らず知らずのうちに取り込まれ、“公僕”としての倫理観との板挟みにもがき苦しんだ犠牲者とも解釈され得るのではないか。

 しかしさらに大きな視点、ミソロジー(神話学)的な観点から眺めてみれば、忠臣が、主君をいさめるために書面をしたため切腹した故事にさえなぞらえ得るようにも思われる。“必ず読んでもらえる”文書を遺した――という意味において。

(構成=青木 隼)

河合幹雄

河合幹雄

1960年生まれ。桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)。京都大学大学院法学研究科博士課程修了。社会学の理論を柱に、比較法学的な実証研究、理論的考察を行う。著作に、『日本の殺人』(ちくま新書、2009年)や、「治安悪化」が誤りであることを指摘して話題となった『安全神話崩壊のパラドックス』(岩波書店、2004年)などがある。

Twitter:@gandalfMikio

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