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大学医学部で蔓延、裏口入学と女子合格者数抑制の実態…東京医大、パンドラの箱開ける

文=深笛義也/ライター
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大学医学部で蔓延、裏口入学と女子合格者数抑制の実態…東京医大、パンドラの箱開けるの画像1「Gettyimages」より

 東京医科大学では裏口入学の問題に続いて、女子受験生の得点を一律に減点していた問題が発覚した。これは東京医大だけの問題なのか、ほかの大学でも行われているのか。有名私立医科大学出身で医学部の内情に詳しい現役医師に話を聞いた。

「今回の文部科学省前局長の佐野太被告の息子は、1次試験から加点されていたと報じられています。こういうかたちでの裏口入学は今ではありません。10年くらい前までは、親が何千万円も出して、開業医の息子が入ってしまうことが確かにありました。けしからんことですが、その親たちは自分の金を払っている。一方、佐野被告は税金を利用したわけです。そういうのは、本当に腹が立ちます」

 今回の裏口入学は、まったく特異なものだったのだろうか。

「1次試験はマークシート方式でコンピュータによって管理されているので、点数を操作するのは難しい。ただ、2次試験の小論文、面接は採点者の主観でどうにでもなるため、そこで手心を加えるということはあるでしょう。そこで80何番目でコネのない人が落ちて、200何番目のコネのある人が入るということはあると思います。その場合、大学側が寄附金をあらかじめもらってどうこうするということはないです。そういうことに対して、今はすごくうるさくなっていますから。

 大学に入ってから、寄附の案内が全学生に届きますが、『その時に協力してくださいね』と暗に頼むわけです。『もう入学しているので、そんなの知らない』と無視することもできますが、これは紳士協定です。入学した子どもの親と理事との信頼関係です。これで表向きは、任意で寄附をしたということになるわけです。一時期に払うのではなくて、『6年間で払ってほしい』という感じで頼んだりしています。

 私立医科大学は開業医の息子などが多いので、親もそのくらいの金は払いますよね。ただ、1次試験は実力で通らなければならないので、成績が悪いのに金で入れたというのは、今はないんです。今、どんな医科大学でも入学するのはものすごく難しい。埼玉医大、帝京大学、杏林大学あたりは、昔は偏差値50くらいでしたが、今は65くらいまで上がっています。2浪くらいざらですよ」

女子合格者の抑制問題

 では、女子受験生の得点を一律に減点するということは、ほかの大学でも行われているのだろうか。

「一律減点というのは聞いたことないですね。ただ、理科の試験科目で物理を必修にしている某大学の関係者に聞いたら、『女子を省くため』と言っていました。女子は生物が得意な傾向があり、生物と化学で受験されると女子がたくさん入ってしまうので、物理を必修にするわけです。そうやって女子を減らす工夫は、何かしらしてるのではないでしょうか。東京医大でも、一律減点で女子の数を絞っても入学者全体の3割は女子なので、普通にやったら5割くらい女子になるでしょう。今は女子のほうが学力が高いですから。

 ただ、医師になったときに『女性は出産などがあるから戦力にならない』という声は、現実問題として医療現場では考えるところでしょう。私の姉も医師で、結婚してからも医師をしながらたくさんの子どもを産みましたが、3人目で病院を辞めて、その後、開業しましたけど、親父も開業医でお手伝いさんもいましたからね。だからできたというところはあります。育児も自分でやらなければならないとなると、たしかに厳しいでしょう。

 仕事の面では、皮膚科や小児科なら女性がメインでやっても問題ない。心臓外科や脳外科は8時間くらいの手術がざらなので、厳しいかもしれません。婦人科も、出産のときにおなかを押したりしなければならないので、女医だと力が弱いから困るという話も聞きます。もっとも婦人科の場合、患者さんのほうからすれば『やっぱり女の先生のほうがいい』という希望は多いです。いずれにしても、女性を排除してしまうという考え方は時代遅れです」

医学部バブル

 医学部をめぐる状況は、今どうなっているのだろうか。

「今は医学部バブルです。なぜかといえば、歳を取っても働けるから。日本の平均寿命は男が81歳、女が87歳。普通に会社に勤めたら、60歳で定年を迎えて、そこから嘱託で勤めても65歳で終わりじゃないですか。たとえば弁護士なら自分で事務所を持てばいいですが、70歳過ぎた先生をどこも雇わない。ほかの士業でも同じでしょう。それが医者なら、開業する道もあるし、70歳過ぎてもいくらでも雇ってくれるところがあるんです。90歳過ぎて病院で働いている先生だっているくらいですから。

 これから医療の現場でAI(人工知能)の導入が進み、何万という症例がコンピュータに記憶されれば、症状を入力するだけで自動的に診断がついてしまって、内科の医師がいらなくなるかもしれません。しかし、とにかく今は、いつまでも働けるということで、医学部を目指す学生が増えているんです」

 不祥事が続いている東京医大は、これからどうなるのだろうか。

「医学部というのはおもしろくて、学費を下げると偏差値が上がるんです。順天堂大学は2008年から6年間の学費を約900万円も安くして、慶應大学、東京慈恵会医科大学に次ぐ難易度となった。14年に1169万円もの大幅値下げをした帝京大学は、107人の定員に8334人が出願してきて、約78倍の高倍率となり偏差値も高くなった。なぜかといえば、医学部は医師免許を取るために行くところで、専門学校みたいなものなので、ほかの学部とは異なり、医師を目指す学生は大学名に対するこだわりなんてないんですよ。東京医大も受験生は減らないのではないでしょうか。これだけ問題になったので、男女公正の入試をやるでしょうから、女子の受験生が増えるのではないでしょうか。さらに裏口入学もなくなるので、なんのコネもない学生も東京医大を目指すでしょう。まさに、悪名は無名に勝るです」

 医学部バブルのなかで、命を救いたいから医師を目指すという者が、どれくらいいるのだろうか。東京医大の問題は、さまざまな問題をあぶり出している。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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