北海道旭川市の市立北星中学校2年の廣瀬爽彩さん(当時14)が今年3月23日、同市内の永山中央公園で凍死の状態で発見された問題。前回に引き続き、同問題を精力的に取材している元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が公式YouTubeチャンネル「小川泰平の事件考察室」にまとめた動画『旭川女子中学生事件』の紹介とあわせ、小川氏の見解を聞く。
北海道警「自裁とは発表していない」
小川氏は、爽彩さんが2019年6月、同市内のウッペツ川で上級生グループに囲まれた状況で川に飛び込んだ事案と、遺体発見時の状況に関して、北海道警旭川方面本部・旭川東署を取材した。そして爽彩さんの遺体発見に関し、次のような道警としての公式見解を引き出した。
「(爽彩さんの遺体発見に関し、道警は)自裁とは発表していない」
小川氏は次のように指摘する。
「ご遺体の状況から他殺の可能性はありません。ご遺族は望まれていないかもしれませんが、ただ爽彩さんが亡くなるまでの間、何があったのかはこの事件の全容解明にとって重要だと思っています」
また、ウッペツ川の件に関し次のように続けた。
「一緒にいた上級生らが川に飛び込むように、はやし立てていたという真偽不明の情報が寄せられています。また、不適切な動画を撮影するために、小学生を使って爽彩さんを小学校のトイレなどに呼び出し、逃げられないようにして撮影されたとの情報もあります。
ウッペツ川の件に関して言えば、もし周囲が、爽彩さんに対して川に飛び込むように強要していたのなら、最低でも強要罪が成立します。自殺教唆などにも該当する可能性があります。また爽彩さんが、どれくらい泳げるのか、当時の川の水量や流れの強さ、深さなどの状況によっては、未必の故意による殺人未遂が適用される可能性もあります。
不適切な画像・動画撮影に関しては、児童ポルノ禁止法違反はもとより、トイレなどへの監禁や誘拐罪が成立する可能性もあります。いずれにせよいじめを超えた犯罪であることは明らかです。現場には触法少年(14歳未満)もいたとのことですが、そうであっても児童相談所への通告などの対応があってもおかしくない事犯だと思います。
初動捜査を常に、完全に行うことは難しいことです。ですが、たとえ最初でつまずいても、多くの捜査員がそのミスを後から補って事件を解明するのが警察の組織捜査です。初動対応の不備は否めませんが、今後、道警がどのような対応をしていくのか注視したいと考えています」
今、小川氏が第三者委員会に望むこと
小川氏は第三者委員会の構成にも疑問を呈する。11人の委員のうち、札幌市の1人を除いて旭川市内の人物で占められているという。なかには、市教委から講演依頼を受けていた人物も含まれているからだ。小川氏は語る。
「第三者委員会は独立した公正中立の組織であることが求められています。独立した委員会の職責を果たしてほしいと強く思います。現状、この事件で何があったのかを公的に明らかにできる最大にして最後の機会だと思うからです。
第三者委で『いじめ認定』がされることにはなると思われます。当然、いじめ認定がされれば、いつ、どこで、誰が、誰と一緒に、だれに対して、何をしたのかが明らかになるわけです。
それらが明らかになれば警察も捜査に動かざるを得ませんし、被害者のご遺族、またはこの第三者委員会の結果に注目されている方々が黙ってはいません。だからこそ第三者委員会の調査結果にすべてがかかっているのです」
また小川氏は、この問題が当初、在京キー局や全国紙などで取り上げられることが少なかったことについて、以下のように所見を述べた。
「第一に、どうしても廣瀬さんが被害にあった“不適切画像・動画”の存在に触れなければならず、被害者の人権尊重の視点から取材しずらいということです。第二に第一報から時間が経ち、遺族の方の協力が得られないこと。第三に、この問題を全国的に報じた週刊文春(文藝春秋)の報道に追いつけそうにないということ。遺族や関係者のコメントや協力を得られずに、大規模な取材クルーを現地に派遣しても、経費に見合った成果があげられないということです。ただ今月18日に被害者の代理人が会見したことによって、少しずつメディアの動きも活発化しつつあります。
大メディアが報じない一方、これまでも多くのYouTuberの方が問題意識を持って旭川で調査してきました。私の取材も多くのYouTuberの協力なくして、ここまで来ることはできませんでした。引き続き、多くの方の協力を得ながら取材を続けたいと思います。
これからは加害者側の関係者の話も聞ければ聞きたいです。学校、旭川市教委はこの問題が鎮静化することを願っているかもしれないですが、YouTubeやSNSなどを駆使して情報を発信し続けている方はたくさんいます。そう簡単には鎮静化することはないと思います」
これほど凄惨な事件ともなれば風化することがあっても、完全に忘れ去られることはないだろう。むしろ正しい情報を伝えるはずの行政やマスコミが沈黙を続ければ続けるほど、真偽不明の噂話が尾ひれをつけて拡散して残り続け、直接事件と関係のない人々をも長く傷つけることになるのではないか。
取返しのつかない悲劇を防げなかった大人たちの責任が今こそ、問われている。
(文・構成=編集部、協力=小川泰平/犯罪ジャーナリスト)