北海道・旭川市の女子中学生、廣瀬爽彩さんがイジメを苦に今年2月に命を絶った事件。今月18日には爽彩さんの母親が綴った手記が公開され、学校と旭川市教育委員会のあまりに杜撰な対応が波紋を呼んでいる。
手記によれば、2019年、当時中学1年生だった爽彩さんがイジメを受けている様子を感じた母親は、複数回にわたり学校の担任に相談したが、
「いじめるような子たちではありません」
「思春期ですからよくあること」
「いじめなんてわけがない。いじめていたら、じゃあなんでリュックなんて届けてくれるんですか」
などと否定された。そして、「子どもたちに囲まれ、ウッペツ川に飛び込んだ事件の後、爽彩の携帯電話に、いじめを受けていることを示す履歴があることを学校に知らせ」(手記より)たものの、学校の教頭から次のような言葉を浴びせられたという。
「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみてください」
また、相談をした学校と市教委の対応について、
「いじめの認知には至らなかった、などと繰り返し主張しています。教育委員会の態度は、『いじめ』をもみ消そうとしているようにさえ見えます」
としてる。
爽彩さんは2年前、転校前に通っていた中学校で上級生グループから不適切な動画の撮影を強要され、その画像をSNSで拡散させるというイジメを受け、自殺未遂を起こしていた。しかし、同年発売の地元誌「メディアあさひかわ」(月刊メディアあさひかわ)の報道によれば、事態を把握した学校側は「いじめはなかった」として、必要な対応を取らなかったという。
ちなみにこの中学の当時の校長は「文春オンライン」の取材に対し、「(イジメに)至ってないって言ってるじゃないですか」と発言。爽彩さんが同校生徒から不適切な動画の撮影を強要されていたことについては「今回、爽彩さんが亡くなった事と関連があると言いたいんですか? それはないんじゃないですか」などと話している。
地方の教育界、お互いに知った顔同士の狭い世界
事態を重く見た旭川市の西川将人市長は今年4月になってようやく、市教委に調査を指示。市教委は第三者委員会を立ち上げ検証を行っているが、調査結果のとりまとめ時期について、地元メディアの取材に対して「今のところ、めどは立っていない。具体的な時期は申し上げられない」としている。
母親は手記のなかで第三者委員会の調査について、
「今も違和感と疑問をぬぐい去れません。公平で中立な調査が行われているのか、誰が、どんな調査をして、本当に真実に迫ろうとしているのか。調査の進捗に関する情報が極端に少なく、調査委員会の動きを、どう評価すれば良いのか、いまだ戸惑っています」
と不信感を示しているが、市関係者はいう。
「ウチのような地方では、現場の学校の教師から校長、教育委員会からなる教育界は、お互いに知った顔同士の狭い世界。教師も教育委員会の事務局もみんな地方公務員で、“誰々は昔どこそこでお世話になった”“同じ職場だった”“以前あそこの学校で上司と部下の関係だった”みたいな感じで、ズブズブの“しがらみ”のなかで生きている。
イジメを揉み消して母親に暴言を吐いたとされる校長はすでに昨年退職していますが、たとえ退職しているとしても、教育界の有力OBである彼の責任を厳しく追及するような調査など期待できない。彼にシンパシーを抱く校長や、懇意にしている人間も多いでしょうから、教育界内部からの反発も怖いでしょうしね。この校長も2000万円近くの退職金をもらって、あとはのんびり静かに暮らしたいでしょうから、マスコミの取材などで語ってる言葉から察するに、“今さら過去をほじくり返されて、いい迷惑”くらいにしか思っていないんじゃないですかね」
イジメ、教師によって対応はまちまち
また、40代の公立中学校教師はいう。
「自分が担任を受け持つクラスでイジメの疑いを感じた際、物怖じせず徹底的に当事者の子どもたちと向き合うのか、逆にできるだけ“気づかないふり”をするのかというのは、教師によってまったくまちまち。学校単位でいえば、トップである校長や教頭によって全然対応が違ってくるのが実情です。
学校の現場では、新卒の新人教師がなんの準備もマニュアルもなく、いきなり担任を任されて現場に放り込まれる。教師たちはそのなかで試行錯誤しながらノウハウを身につけていくわけなので、結果としてイジメへの対応方法や考え方も教師によってバラバラになる。“そんなのは、教師の仕事じゃない”“すぐ警察に通報すべき”と考える教師もいるくらい。加えて、今の学校教師は、朝のホームルームに始まり日中の授業、部活動の指導、生徒の生活指導や保護者対応、さらには内申書や教育委員会などへの報告書の作成など書類仕事も重なり、朝7時から夜10時過ぎまで働きづめになることも珍しくないほどの激務。部活動で休日がつぶれることだって多い。
まったく言い訳にはなりませんが、そういう勤務環境のなかで、学校や教師が、できるだけイジメなどの面倒な問題を“なかったこと”にしようという方向に傾く面はあるでしょう。
また、あくまで私見ですが、特に50代以上の教頭や校長などの管理クラス、いわゆる“古いタイプの先生”のなかには、“学校にイジメなどあってはならない”“あるはずがない”という固定観念に縛られ、イジメの存在を認めようとすらしない人が多いような気がします」
当サイトは2021年4月26日付『旭川・中学生イジメ自殺事件の闇…校長は隠蔽・対応放棄、道警と地元メディアは黙殺』で学校と市教委の杜撰な対応について報じていたが、今回、改めて再掲載する。
――<以下、再掲載>――
恐ろしいほどの隠蔽体質に、驚きが広まっている――。
「文春オンライン」のスクープで明るみに出た、北海道・旭川市の女子中学生イジメ自殺事件。今年2月に命を絶った廣瀬爽彩さんが、転校前に通っていた旭川市立北星中学校で上級生グループから、不適切な動画の撮影を強要され、その画像をSNSで拡散させるというイジメを受けていた事件だが、爽彩さんが2年前に自殺未遂を起こしていたことを地元メディアが報じていた。
月刊誌「メディアあさひかわ」(月刊メディアあさひかわ)は、19年9月発売号でこの問題を追及。同誌によれば、当時、事態を把握した北海道警察や旭川市教育委員会は、北星中に対して適切な対応を求めたものの、学校側は「いじめはなかった。男子生徒らの悪ふざけ」(同誌より)などとして、当時の校長を中心として、おざなりな対応に終始していたという。
自殺未遂が起きた当時の北星中学校長は「文春」の取材に対し、「(イジメに)至ってないって言ってるじゃないですか」と発言。さらに、爽彩さんが同校生徒から不適切な動画の撮影を強要されていたことについて、「今回、爽彩さんが亡くなった事と関連があると言いたいんですか? それはないんじゃないですか」などと話している。
「旭川市の西川将人市長は今月22日になってようやく、市教委に調査を指示しましたが、もし『文春』報道がなければ、学校も道警も市教委も、自殺の原因をひた隠しにしたままで、真相は完全に闇に葬られたままになっていたでしょう。『メディアあさひかわ』の報道もあり、自殺未遂の件は道警記者クラブ所属の主要メディアは把握していたにもかかわらず、爽彩さんが2月に自殺して以降、『文春』報道を受けて旭川市が公に動き出すまでの約2カ月間、まったくといっていいほど報じていないのも問題でしょう。
特に地方では、記者クラブ加盟メディアは警察や県・市などの自治体の意向に逆らうと情報をもらえなくなるので、言いなりになりやすい。今回の件でいえば、情報が出てしまい事を荒立てたくない道警に、地元メディアがこぞって加担してしまったという構図が浮かんできます」(全国紙記者)
また、メディア関係者はいう。
「道警は、爽彩さんの自殺とイジメに関する問い合わせに対し、『記者クラブ加盟社以外のメディアには答えない』と対応を拒否しています。コントロールが効かないメディアに知られると不都合なことでも、あるのでしょうか。“あくまで学校側と市教委の問題”として終わらせたい道警の姿勢を感じます」
地方都市特有の事情
一方、地元では2年前の自殺未遂とイジメ問題は、一部で知れ渡っていたという。旭川市民はこう語る。
「北星中学は中心街からは車で15~20分くらいに位置し、東京の人からみれば、いわゆる“田舎の中学”。特に特徴のない普通の公立中学です。近くには、地元で“附属”と呼ばれる、受験して入学する北海道教育大学附属中学や、道教育大学旭川校、広大な敷地の自衛隊駐屯地がありますが、これといって特徴がある地域ではありません。ちょっと離れたところにアイヌ記念館があり、10年以上前には大きなイオンモールも開業しました。
旭川では、同じ地域の子供たちが同じ公立小学校に通い、そのまま同じ公立中学校に通うので、小中の9年間、刺激が少ない環境下、まったく同じコミュニティーのなかで時を過ごすことになります。そのため、同学年の子供と保護者たちの間では、誰と誰が仲良しグループで、誰が“イジメられっ子”で、誰が問題児で、どのグループが誰をイジメていて、誰と誰が男女の交際をしているのかなど、込み入った情報がすぐに伝わってしまいます。
自殺した女の子も、誰と誰のグループからどんなことをされていたのかという情報は、関わった子供の同級生や保護者、さらには学校の先生のみならず、一部の地元住民たちにも伝わっています。
今回、イジメの件を警察や市の教育委員会も把握していて、北星中学に対応を求めていたものの、校長以下が“イジメはない”として何の対応もしていなかったということですが、さもありなんという感想です。こっちでは大半の中学生は、受験して市内の私立か公立の高校に進学しますが、受験競争もそれほど激しくなく、中学3年間の成績を見て“入れる高校に入る”という感じで、学校の先生方も緊張感がない。地方公務員で地元の教育界という狭い世界で生きているので、今回のように平気で揉み消すような事態が起こるのだと思います」
(文=編集部)