9月17日告示、29日投開票の日程が決まった自民党総裁選は、岸田文雄前政調会長が早々と出馬表明の記者会見を開く一方、出馬への意欲を示していた下村博文政調会長が断念。告示まで半月あり、最終的に誰が出るのか、出ないのか、まだ紆余曲折がありそうだ。
現職の菅義偉首相が再選を狙っているのに党内がガタガタするのは、若手・中堅議員の間で菅首相への反発が燻っているからだ。その理由は「菅首相では選挙に勝てない」に尽きる。10月21日の衆議院議員の任期満了まで残り約1カ月半。今秋には確実に衆院選が行われる。
自民党は8月21、22日に電話による情勢調査を実施した。直後から永田町に流れているのは、「現有(276議席)から40~60議席減」というものだ。落選危機のほとんどは当選4回以下の議員で、菅内閣の支持率急落に比例するように、野党候補との差を縮められたり、野党候補に抜かれたりしているという。
現有から40議席減なら236議席で、過半数の233議席を自民単独でわずかながら上回るが、60議席減なら216議席となり、公明党が17議席以上獲得することで、ようやく自公で過半数を超えるという際どい数字だ。
野党第一党の立憲民主党への支持があまり広がっていないとはいえ、そうなると偶発的に自公で過半数を割る恐れも出てきかねないのだが、その万が一に備えて、すでに自公は手を打っているという。ある省庁の幹部がこう話す。
「お盆明けくらいから『今度の衆院選挙後に国民民主党が連立に入る』との情報が霞ヶ関界隈で出回っている。どうやら発信源は国土交通省らしい。国交省は大臣が公明党。公明党が動いているのだろうか」
今度の衆院選で苦しいのは公明党も例外ではない。山口那津男代表は比例800万票を目標に掲げるが、2017年の前回衆院選で最低ラインとしてきた700万票を割り、19年の参院選では653万票だった。今度はこれをさらに下回る可能性が高い。
公明党の現有議席は29。しかし、「現状の党勢では25ぐらいまで減らす可能性がある」(自民党の選挙関係者)。自公で過半数割れとなった時に公明党が恐れるのは、連立内に日本維新の会が入ってくることだ。維新の本拠地である大阪は、公明党にとっても最重要選挙区で、大阪都構想をめぐって激しく戦ったしこりが残っている。組むなら、維新より国民民主党のほうがましということなのだろう。
維新の政権入りも取り沙汰
国民民主党を支援する民間労組は、かつての「同盟」時代に民社党を支援し、公明党とは良好な関係を結んでいたという過去もある。国民民主党の玉木雄一郎代表も、自公連立政権入りについて、まんざらでもない。
最近も8月29日放送のBSテレ東の番組で、衆院選での立ち位置について「自民党政権に向き合い、おかしいところはおかしいと選挙を戦う」としながらも、長期的には「場合によっては与党とも連携し政策を実現していく」とも発言しているのだ。
「国民民主党の現職のうち、玉木さん、古川(元久)さん、前原(誠司)さんなど5人は小選挙区で当選できそう。玉木さんには何か大臣ポストでも提示すればコロリだろう」(永田町関係者)
菅首相は維新の松井一郎代表との個人的な関係があるため、連立に維新が加わる可能性は残る。
「維新の馬場伸幸幹事長がテレビ出演時に、衆院選後の閣外協力も含めた与党との連携を口にし、すぐに松井氏がそれを否定していますが、あくまでも選挙前だからでしょう。衆院選で議席増を狙うには、維新は野党の立ち位置のほうがいい。特に、大阪では自民党と真正面から戦っているのですからなおさらです。しかし、選挙が終わってしまえば、維新の与党入りはあり得ない話じゃない」(前出の永田町関係者)
菅首相か菅首相以外なのか――。総裁選の行方次第ではあるが、自公政権が権力に留まるためなら、何でもアリだ。
(文=編集部)