中国、アフガン・タリバン政権の復興支援で狙う“110兆円の鉱山資源”…中東へ影響力拡大
あっという間に首都カブールを陥落させ、アフガニスタン全土をほぼ掌握したイスラム原理主義勢力タリバンに、中国が秘かに接触し、影響力を強めているようだ。中国外務省報道官は8月25日、定例記者会見で、カブールで駐アフガン中国大使がタリバンと接触し、両者は「円滑な意思疎通と協議をしている」と言明したうえで、「アフガン再建のために建設的な役割を果たしていきたい」と指摘した。
報道官は具体的な協議内容には言及しなかったが、タリバン側はツイッターで、中国側との接触を認めたうえで、「中国大使館や外交官らの安全」について話し合ったことを明らかにしている。中国としては国外を拠点として新疆ウイグル自治区の独立を掲げる反中勢力「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)やウイグル過激派「トルキスタン・イスラム党」(TIP)が同自治区に流入しテロ活動を展開する事態を懸念しており、タリバンと定期的に接触することで、少なくとも敵対関係に陥るようなことは避けたいとの考えだ。
また、アフガンにはリチウム、鉄、銅、コバルトなど1兆ドル(約110兆円)相当の手つかずの鉱産資源が眠っていることがわかっており、中国としては今後の経済開発にとって垂涎の的だけに、中国を中心とする広域経済圏構築を目指す「一帯一路」構想で、経済関係を強化して、タリバンを中国側に取り込みたいところだ。
アフガンにとって中国は重要な貿易相手国
中国はまだタリバンをアフガニスタンの新政府として正式に承認していないが、8月15日にタリバンがカブールを制圧すると、ただちに「アフガニスタン国民の意思と選択を尊重する」「アフガニスタンとの友好協力関係を発展させる」などの声明を発表した。中国はこれまで、アフガンに数百万ドルの医療援助を行い、病院や太陽光発電所などの建設を支援している。 その一方で、中国は両者の貿易関係を強化し、最終的にはアフガンにとって最大の貿易相手国の一つとなっている。
このため、中国の声明に込められた真意は「北京はタリバンとの緊密な関係を築くことに何のためらいもなく、米国から事実上見捨てられたアフガニスタンで最も影響力のある外部プレーヤーになる用意がある」というものであることは明白だ。
中国はこれ以前に、タリバンがアフガンを掌握する事態が現実になることを見通していたようだ。王毅外相は今年7月、タリバンの共同創設者、アブドゥル・ガニ・バラダル師を中国・天津市に招いて会談し、ETIMは「中国の国家安全保障と領土保全に対する直接的な脅威となる」ことから、「タリバン・ETIM関係の完全解消」を要請した。これに対して、バラダル師は「いかなる組織もアフガニスタンの領土を中国に敵対する活動のために利用することを絶対に許さない」と応じている。
とはいえ、今アフガンは正式な政権発足前の混乱状態にある。米国の支持を受けたアフガン政権が崩壊したことで、海外に逃れていたタリバンの実力者が続々とアフガン入りし、武闘派や穏健派などさまざまなグループが入り乱れており、どのような勢力が実権を握るかは未知数だ。タリバンの実力者であるバラダル師のグループが主流派になる保証もない。
それに、ETIMにせよ、過激派で知られるTIPにせよ、彼らの拠点はアフガン国内にあり、彼らの親戚や仲間が新疆ウイグル自治区内に住み、中国政府から弾圧を受けているとすれば、タリバンがアフガンを掌握したことを機に、バラダル師と王外相との話し合いの内容にかかわらず、同自治区内でテロ活動を活発化させても不思議ではない。
いずれにしても、アフガン国内の主導権争いの行方次第では、中国・アフガン関係は二転三転することが考えられる。
「黄金のチャンスをつかむ準備」
このようななかで、アフガン新政権の喫緊の課題は国内情勢の安定化だろう。食糧事情の改善や経済的な安定が重要で、経済建設が順調にいけば、国民の新政権への信頼に通じるからだ。
一帯一路構想を主導する中国としては、アフガンへの経済支援を軸に外交関係の安定化に取り組もうとするのではないか。例えば、米紙ニューヨーク・タイムズは「中国が一帯一路をパキスタンからアフガニスタンまで延長する。例えばペシャワールからカブールまで高速道路を建設することができれば、中国から中東地域への最短の陸路を開くことができ、中東市場へのアクセスが容易になる」と指摘し、中国にとっても、タリバンにとっても、経済的に大きなメリットを享受できると結論付けている。
さらに、中国にとって喉から手が出るほど欲しいのが、アフガンの手つかずの鉱産資源だ。同紙によれば、アフガンには「鉄、クロム鉄鉱、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、リチウム、ベリリウム、金、銀、プラチナ、パラジウム、タルク、大理石、バライト、宝石および半宝石、塩、石炭、ウラン、石油、天然ガス」などが埋蔵されている。とくに、リチウムは中国が開発を急いでいる電気自動車(EV)の主要部品の原材料となる。同紙は「中国はアフガニスタンでの黄金のチャンスをつかむ準備ができている」と報じているのだ。
また、中国共産党機関紙「人民日報」傘下の国際問題専門紙「環球時報」は17日、安全保障上の懸念を指摘しながらも、ニューヨーク・タイムズ同様、「中国がアフガニスタンの戦後復興に貢献し、停滞しているプロジェクトを再開する可能性がある」と伝えている。
環球時報は資源開発の中国冶金科工股分有限公司(MCC)の関係筋の話として、状況が安定し、中国政府を含む国際社会がタリバン政権を承認し次第、MCCがアフガニスタン最大の銅プロジェクトの再開を検討するとも報じている。MCCと中国の産銅会社、江西銅業のコンソーシアムは2008年にアフガン・アイナク鉱山の30年間のリース契約を締結したが、未開発のままになっており、今後、再開する可能性があるというのだ。
タリバンのアフガン全権掌握後、ただちに動き出した中国の狙いは安全保障や経済、外交などさまざまな分野を包括しており、「孫氏の兵法」でいえば、「戦いは正を以て合し、奇を以て勝つ」(兵勢篇)が当てはまるだろう。つまり、正(正攻法)である外交と奇(奇襲)である経済支援によって勝利を収めるといえるのではないだろうか。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)