自民党の高市早苗前総務相が月刊誌「文藝春秋」(9月特別号)で「総裁選に出馬します!」と宣言した。「日本経済強靭化計画」と名付けた政策を発表、「『美しく、強く、成長する国』を創るために、国家経営のトップを目指す」という。
「美しい国」といえば、安倍晋三前首相が第1次政権のときに掲げた文言だ。「現在の菅義偉政権が安倍政治を継承していないから、私が取って代わって継承する」という宣言でもある。自民党内では「安倍氏の許可なく、こんなことはやれない」「安倍氏のお墨付きなのか」などと騒がしい。実際、高市氏は出馬に向けて、安倍氏を訪ね、支援を頼んだとされる。安倍氏は言質を与えなかったようだ。
高市氏はかつて安倍氏の出身派閥(細田派)に属していたとはいえ、現在は無派閥で、グループを率いているわけでもなく、推薦人20人を集めるのは容易ではない。同党女性議員のなかでも、これまで裁選選出馬を口にしてきたのは野田聖子元総務相や稲田朋美元防衛相で、高市氏の名前はほとんど上がったことがなかった。なぜ突然、高市氏は「決断」したのだろうか。
「高市さんを担ごうとしているのは、高鳥修一筆頭副幹事長が代表世話人を務める党内グループ『保守団結の会』の一部です。背景には、稲田氏への嫌悪や嫉妬と細田派内の事情がありそう」(自民党のベテラン議員)
高鳥氏らは、もともと稲田氏を会長に担いだ「伝統と創造の会」で活動するなど、高市氏より稲田氏に近かった。しかし、このところ稲田氏はLGBT支援や選択的夫婦別姓の勉強会を立ち上げるなどリベラル色を出し始めたため、「伝統と創造の会」のメンバーの考える「家族観」とは異なるとして不満が噴出。高鳥氏らは稲田氏と決別し、「保守団結の会」という別のグループを結成した。そしてさらに、稲田氏に対抗できる「伝統的な保守」の女性議員として、高市氏に白羽の矢を立てたというわけだ。
「高市氏も稲田氏に対してライバル心というか、嫉妬心がある。高市氏の当選8回に対し、稲田氏は5回にすぎない。それなのに、早いうちから安倍氏にかわいがられて、防衛大臣や政調会長という党三役に就き、総裁までめざそうというのですから高市氏はおもしろくないでしょう」(前出のベテラン議員)
高鳥氏は自民党新潟県連会長として、8月11日に総裁選について党本部に申し入れをしている。「党員投票を含む総裁選挙を9月中に実施すべし」という要請だ。総裁選を総選挙の後にすることや、菅首相の無投票再選を牽制するもので、これも高市氏擁立の流れの一環とみられる。
細田派内の事情
ただ、高鳥氏らが高市氏を本気で総理大臣にしたいのかは怪しい。そこに、高鳥氏自身も所属する細田派内の事情が見え隠れする。
「細田派内で、将来の総裁候補としてこれまで名前が上がってきたのは、下村博文政調会長、西村康稔経済再生担当相、萩生田光一文科相、そして稲田氏。しかし、このうちの誰かひとりで派内がまとまるかといえば、難しい。彼らに人望がないということもあるが、誰についたとしても、しこりが残る。ならば第5の候補で、ということ」(前出のベテラン議員)
コロナ禍という危機下において日本のリーダーとして誰がふさわしいのか、という基準ではなく、自民党お得意のコップの中の争いのようだ。
(文=編集部)