高齢者が引き起こす自動車事故が深刻な社会問題になっている。
今年7月25日、神奈川県横須賀市の自動車専用道路の「横浜横須賀道路」で、乗用車が約10キロにわたって逆走し合計7台の車と衝突するという、信じられないような事故が発生した。
運転していた70歳の男性は、自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで現行犯逮捕されたが、翌日には釈放された。男性には認知症の通院歴があり、それが原因で逆走してしまった可能性があるからだという。
むろん、事故を起こした男性が無罪ということではない。逃走の恐れがないことから、在宅での捜査に切り替えられたようだ。それでも、重い認知症と判断されれば罪状が軽減されるケースも出てくる。今後、高齢化が急速に進行するなか、認知症のドライバーによる交通事故が増えるのではないかと懸念されている。実際、国内の認知症患者は増加の一途をたどっているのだ。
2017年3月から認知機能検査が義務化
厚生労働省の2015年6月の発表によると、12年時点の認知症患者数は約462万人で、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推定されている。高齢化の進展で患者数は右肩上がりに増えることは間違いなく、団塊の世代が75歳以上となる25年には700万人前後に達する見込みだ。そうなれば、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症を患っていることになる。
認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)の患者も認知症患者とほぼ同程度いるとされており、合計すれば、あと10年以内にMCIおよび認知症の患者は1000万人を超えると見られる。もはや、高齢ドライバーの認知症対策は待ったなしといえるだろう。早急に対策を講じなければ、冒頭のような暴走事故が珍しい事態ではなくなるかもしれない。
むろん、国も認知症ドライバーの事故については問題意識を持っており、17年3月に改正・施行された道路交通法で、75歳以上の高齢者が運転免許を更新する際に「認知機能検査」を受けることを義務付けている。
認知機能検査は運転に必要な記憶力や判断力など認識能力の低下をチェックするもので、時計の文字盤に指定の時刻の針を描くなど、30分程度の検査が行われる。判定は3段階で、第1分類が「認知症のおそれがある」、第2分類が「認知機能低下のおそれがある」、第3分類が「問題なし」だ。第1分類と判定された場合は、別途医師の診断が義務付けられ、そこで認知症と判定されれば免許の取り消しや停止処分になる。
さらに、免許更新時以外でも認知症患者を見つけるために、「臨時認知機能検査」も新設した。これは75歳以上の運転者が、信号無視や通行区分違反、一時不停止など、認知機能が低下したときに起こしやすい一定の違反行為をした場合に検査を義務付けるもの。ただし、3カ月以内に認知機能検査を受けていた場合は除かれる。
75歳以上のドライバーの約3割は認知機能が低下
では、17年3月12日の改正道路交通法施行から18年3月31日までの約1年間で、認知機能検査を軸とした高齢者運転対策はどのように進展したのか――。
警察庁の発表によると、認知機能検査が義務化されてから約1年間の受検者数(更新時と臨時の合計)は210万5477人で、第1分類(認知症のおそれ)と判定された人は5万7099人、第2分類(認知機能低下のおそれ)が55万3810人、第3分類(問題なし)は149万4568人となった。第1分類と第2分類をあわせると、全体の約3割に相当する。実に、75歳以上のドライバーの3人に1人が認知機能になんらかの問題があることが判明したのである。