中国国産映画、世界興行収入ランキングを席巻…ハリウッド映画一強状況を崩す
前回の記事では、2018年日本の夏休み映画について言及したが、今回は18年の世界興行収入を紐解きながらグローバル市場について考察する。
アメリカ映画独壇場の終焉。中国映画が世界興行収入ランキング入り
歴代の世界興行収入を見れば明白だが、最大の映画市場であるアメリカが世界の映画産業を牽引してきたことは誰もが知るところだろう。常にランキングの上位を占めるのは、ビッグ6(ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース・エンターテイメント、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、20世紀フォックス、ユニバーサル・ピクチャーズ、パラマウント・ピクチャーズ)が手がける、いわゆるハリウッド映画大作だからだ。アメリカ国内でヒットした映画を、いかにグローバルでヒットさせるのかという術を追求し、そのノウハウの蓄積と強固なネットワークを構築し、絶対的なビジネスを展開し続けてきた。
しかし、そうした状況に異変が起きている。図1の18年の興行収入世界ランキングを見ると、アメリカ国内でまったく興行収入を上げていない作品がランクインしていることがわかる。そう、中国国内のみのヒットで世界興行収入ランキング入りする中国映画が5作品も世界興行収入トップランキング入りしているのだ。
中国の映画市場規模は、10年以降10%以上の成長率を維持し、12年に日本を超して世界第2位となり、さらにはアメリカに肉薄するまでに急成長。17年には日本の約4倍の559億1100万元(約9580億円)の市場規模となり、20年には世界最大の700億元(約1兆2000億円)規模に達するとの予測も出ている。
中国の国産映画のレベルが飛躍的に向上。多様化によるビジネスチャンス拡大
では、中国のヒット映画はどのようなものがあるのだろうか。図2は18年の中国国内の興行収入ランキングだ。赤い網掛け部分が「中国国産映画」で、水色が「アメリカ映画」、緑色が「その他」を示している。これを見ると、上位20作品のうち、半数が中国国産映画だ。これまでは、ランキング上位にはハリウッド超大作を中心に洋画の比率が高かったのだが、近年は中国国内の映画製作産業が成熟してきており、純国産でもハリウッドに引けをとらない作品が多くなっている。
注目の作品は、『Detective Chinatown 2』と、中米合作の『The Meg』だ。
『Detective Chinatown 2(唐人街探案2)』は人気探偵シリーズの第2作。ニューヨークのチャイナタウンを舞台に、世界中から集められた探偵が難事件解決を競うというアクションコメディだ。主要キャストとして日本探偵の「野田」役を演じているのが妻夫木聡。どうやら、第3作目は彼を中心とした日本のチャイナタウン横浜が舞台の作品になるようだ。
日本でもヒットしている迫力満点のサメ映画『The Meg』は、中国資本の中米合作映画として注目に値する。すでにハリウッド映画には多額の中国資本が入り込んでいるし、合作映画自体が珍しいわけではないが、特筆すべきはストーリー設定だ。本作で描かれる海洋研究所は中国人がトップで、アメリカが出資しているという設定。この映画が中国資本でアメリカの監督を起用していることと、ちょうどテレコになっている。
そして、ジェイソン・ステイサムが主演で、そのヒロイン役が中国人女優のリー・ビンビンと、映画で描かれているチームが中国とアメリカの“合同”であり、座組みがストーリーとリンクし、うまく作用しているように感じる。まさに、現在のグローバル映画産業のメタファーのようで興味深い。また、脇役で日本人俳優マシ・オカが扮する悲しい日本人が出てくるのだが、これもまたグローバル映画産業における日本の存在感のなさを物語っているようだ。原作は日本人がヒロインなのだが……。
ジャンルも「アクション」「コメディ」「ドラマ」と多種多様。インド映画もランクインしているし、ハリウッド映画だけではないヒットの裾野が急激に広がり始めており、さまざまな映画ビジネスへのチャレンジが見て取れる。各国が中国映画市場のチャンスを掴もうと本気で挑んでいる表れだ。
日本映画の中国展開は、日中合作などの戦略的な仕掛けが鍵となる
そのなかに日本映画はひとつも入っていない。日本で大ヒットした『君の名は。』が、中国でもヒットしたことは日本でも報じられたが、興行収入5.34億元(約90億円)。16年のトップランキング20位圏外だ。日本での記録的なヒットからすると、少し物足りない数字ともいえる。ただし、『君の名は。』が日本映画で歴代中国興行収入の過去最高であることも事実。つまり、これまで日本映画は中国市場に入り込めていないのだ。
中国で日本映画のヒット作が少ないのは、日本の映画産業が中国への積極的な事業展開をしてこなかったことが要因だと思われる。一般的に中国での日本映画の興行は、中国の配給会社などが日本映画の興行権を取得し、プロモーションなどを一手に引き受けることが多い。中国の配給会社からの引き合いが前提となっていることが大半なのだ。日本での興行がビジネスの中心で、海外展開はあくまでオプション。しかし、中国では外国映画は年間に34本しか上映できない。中国の映画関連会社からオファーがあったとしても、日本映画がハリウッド大作映画などに競り勝って上映を勝ち取ることが困難なため、結果としてそもそも上映される数自体が少ないのだ。
だからこそ、『The Meg』のような中国との合作で製作するなど、積極的に仕掛けていくことが中国攻略には必須だと思われる。合作映画は海外映画にカウントされない。当然、そのことは中国サイドが一番よく理解しているため、中国国内でヒットするポテンシャルのある企画と、実行力を提示できれば資本を含めた合作協業は組みやすい状況でもある。
その点、日本は中国との合作映画を進めやすい側面もあるはずだ。中国の若年層はインターネットの動画サービスを通じて日本のコンテンツに触れており、カルチャー、トレンドなどを共有できている土壌もある。中国で人気のある俳優・女優、漫画なども多く、ビジネスメリットを感じる合作映画を提案できる材料がたくさんあるように思う。ロケ地などインバウンド需要も含めた立体的なビジネス設計を見据えていくことも可能だろう。
日本の映画産業は日本の国内需要だけで成立してきたので、積極的な海外展開をしてこなかったのもうなずける。中国市場はもちろんリスクもあるし、そもそも映画は国内で安定的にヒットするのも至難の産業だ。しかし、徐々に縮小していく日本の内需だけでは事業展開が厳しくなるのもまた現実。中国映画産業に可能性を見いだし、日本ならではのスキームで映画ビジネスを中国に仕掛け、新たな勝ちパターンを創出しなければならない潮目がきているように感じる。
(文=物延秀/株式会社UNITY ZERO 代表取締役社長)