(3)サンフランシスコ講和条約
下記の規定を持つ。
「日本は、千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」。かつ、全権代表であった吉田茂首相は署名前日、「国後・択捉は南千島」と述べている。日本がこれによって独立を獲得したサンフランシスコ講和条約を守る立場に立つ限り、国際法的に国後・択捉を日本領と求める根拠はない。
日ソ国交回復交渉で、重光葵外相は交渉をまとめるため、国後・択捉をソ連領とすることを決意し(従来は四島返還論者)、それをダレス国務長官に説明し、ダレスより「それをすれば沖縄を返さない」と言われる。これを「ダレスの恫喝」という。それ以降、日本は四島一括返還を要求する立場をとる。
安倍政権の方針転換
ソ連が崩壊し、ロシアでエリツィン政権が樹立されると、新しい流れが出る。米国はエリツィン大統領を支援するが、この時、ソ連は経済的に大混乱の中にある。米国は日本・ドイツにロシアへの経済支援を要請するが、日本は「領土問題があるから経済支援はできない」と述べると、米国は日本・ロシア双方に経済支援の支障にならない程度に領土交渉を進展させるように求める。
しかし、これまで日本政府は「四島返還」の姿勢は崩していない。従って今回、安倍首相が「日ソ共同宣言」を基礎に歯舞・色丹の返還を求める姿勢をとったことは、従来方針と大きく異なるものである。
ただし、本年に入りプーチン大統領の支持率が急速に低下している。昨年に比し20%減となっている。こうした状況下、歯舞・色丹といえども、ロシア領土を日本に渡すことに消極的なロシア国民を抑えて、歯舞・色丹を日本に引き渡せるか疑問がある。
なお、ロシアとの領土交渉に関し、米軍は日本のどこでも基地を置けるという論があり、日米安保条約がある限り、ロシアはこの点から領土を返還しないとの主張がある。これは日米地位協定の解釈を対米追随的に行うもので正しくない。日米地位協定を見てみたい。
<第二条
1(a) 合衆国は、日本国内の施設及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は、合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。
(b)行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は、両政府が(a)の規定に従つて合意した施設及び区域とみなす。
2 日本国政府及び合衆国政府は、いずれか一方の要請があるときは、前記の取極を再検討しなければならず、また、前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる>
「前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる」とある。合意ができなければ新たな施設及び提供はない。従って、日本が提供したくない区域はNOと言えばいいだけの話である。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)