緊張感の高まる日韓関係が平行線をたどっている。
韓国の文在寅大統領は11月18日、ソウル市内で開かれた韓日・日韓協力委員会合同総会に寄せたメッセージで「植民地時代は両国にとってつらい過去だ」「持続可能で堅固な韓日関係のためにも、我々は真実を直視しなければならない」と述べた。
一方、河野太郎外務大臣も「(小渕恵三首相と金大中大統領の)日韓パートナーシップ宣言20周年という節目に当たる本年、未来志向の日韓関係構築に向けて協力していくことをさまざまな機会に確認している」「韓国でそれ(未来志向の関係構築)に逆行するような動きが昨今、続いていることに強い懸念を抱いている」とメッセージを送っている。
韓国では、元徴用工の韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めていた裁判で、最高裁判所にあたる大法院が同社に計4億ウォン(約4000万円)の支払いを命じる判決を言い渡した。また、韓国政府は元従軍慰安婦の支援団体である「和解・癒やし財団」を解散する方針だという。戦後の日韓関係のベースともいえる「日韓請求権協定」や「日韓合意」が反故にされつつあるのが実情だ。
徴用工判決については、菅義偉官房長官が「国際法違反の状態」と指摘しているほか、安倍晋三首相や河野外相も一貫して抗議の意を示している。安倍首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議およびアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、シンガポール、オーストラリア、パプアニューギニアを歴訪し、文大統領とは計4回接触したが、いずれも短時間に終わり会談は行われなかった。
インターネット上では、「これだけ考え方や意見が合わないのだから、日本は相手にすべきではない」「国交断絶するなら今」「早く国際司法裁判所に訴えたほうがいい」などと議論が過熱している。
鳩山元首相「日本は無限に責任を負うべき」
日本政府が「戦略的放置」ともいわれる対応を取るなか、鳩山由紀夫元首相の発言が物議を醸している。鳩山氏は16日に、韓国で行われた「アジア・太平洋平和繁栄のための国際大会」で「日本が韓半島(朝鮮半島)を植民化し、その後に第2次世界大戦に突入した結果、韓半島が分断されたというのが歴史的な事実」「日本が植民化と戦犯国の歴史的事実を認め、無限に責任を負うべきだ」と述べたことを韓国の新聞「中央日報」が伝えている。
旧民主党政権下で2009年9月~10年6月まで首相を務めた鳩山氏は、かねて「友愛」の精神を掲げ、中国や韓国に理解を示す立場を取っている。政界引退後は、13年に設立した東アジア共同体研究所の理事長に就任しており、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の顧問を務めるほか、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」についても推進派に名を連ねている。
徴用工と慰安婦という日韓間の歴史問題が再燃している渦中での発言に、ネット上では「この人はなぜ日本の足を引っ張るようなことしかしないのか」「沖縄の基地問題だって、こじらせた張本人でしょ」「日本の元首相という肩書を悪用している」「日本の国益を損なうような発言では」「このタイミングで韓国を利する発言は反日的すぎる」と物議を醸している。
「普天間基地をめぐる『最低でも県外』発言を筆頭に首相時代は朝令暮改が多く、政権交代に期待した国民を裏切るかたちとなりました。そのため、『週刊ポスト』(小学館)が今夏に発表した『戦後歴代最低の総理大臣(日本をダメにした10人の総理大臣)』では3位に入っています。近年は、日本が参加していないAIIBの年次総会や一帯一路の国際協力サミットフォーラムに出席し、いずれも積極的に推進しています。また、今年10月には韓国の釜山大学から政治学の名誉博士号を授与されるなど、近年は中韓での存在感のほうが大きいといっても過言ではありません」(政治ジャーナリスト)
日本と韓国の商工会議所が釜山市内で開く予定だった「日韓・韓日商工会議所首脳会議」が延期されるなど、日韓間の冷え込みは財界にも影響を及ぼしている。そんななか、11月29日には、戦時中に三菱重工業に徴用された韓国人が同社に賠償を求めた裁判の判決が言い渡される予定だ。韓国は同様の裁判で新日鉄住金に賠償命令を下しており、三菱重工業に対しても賠償を命じる判決が確実視されている。
29日の判決いかんでは、日韓関係にさらなる亀裂が入りそうな気配だ。
(文=編集部 写真=尾藤能暢)