2月7日は北方領土の日。例年、全国各地で返還要求大会が開かれてきたものの、過去、この日が大きく報道されてきたとはいえない。
ところが、今年は別の意味で話題を提供した。東京の国立劇場で行われた39回目の全国大会。「(日露)双方が受け入れられる解決策を」などと当たり障りのない挨拶をした安倍晋三首相の言葉には「不法占拠」はおろか、「固有の領土」「帰属」の言葉もまったくなかったのだ。決意表明でも「北方4島は不法に占拠され」の言葉は消えた。
こうした最近の流れに抑えていた不満を壇上で噴出させたのは、千島歯舞諸島居住者連盟の脇紀美夫理事長(77)だった。「この1年、4島の返還というメッセージ、雰囲気が影をひそめてしまった気がしてなりません。1年半前まで4島返還という言動や文字が普通であったのに。どうしてなのでしょうか」と訴えると拍手が起きた。
驚くのは、この日に政府(内閣府北方対策本部)が新聞に掲載した広報である。ロシアのプーチン大統領が年末に来日した2016年の2月7日の広報には、「北方4島は一度も外国の領土になっていない。我が国固有の領土です。戦後に法的根拠もなく占領されて71年。返還を求める行事に参加してみませんか」と書かれていた。ところが今年は「あなたの関心が解決の後押しに。もう一度考えてみませんか、北方領土のこと」と意味不明だ。政府は「ロシアへの配慮」だとするが、ここまで卑屈になって対等な外交ができるだろうか。これも外交戦略というなら、それだけの成果を得なくては許されまい。
政府の意向を東京以上に「反映」させたのが、「北方領土返還運動の原点」とされ、多くの引き揚げ者が暮らす根室市だ。福祉会館で行われた恒例の住民大会。いつも入り口で配られていた「島を返せ」と大きく書かれた襷(たすき)が配られない。「おかしいぞ」という声が渦巻く。配られた鉢巻の文言も、昨年までの「返せ、北方領土」ではなく「日露平和条約の早期締結を」。シュプレヒコールも、昨年までの「北方領土を返せ」が、「日露平和条約の早期実現を」「日露の新時代を築こう」と変容した。
しかし、この日、色丹島からの引き揚げ者である水産会社経営、得能宏さん(84)は、「築こう」と呼応する場面で怒りを込めた表情で「返せー」と大きな声を出していた。そうした声はほかにも聞かれた。根室市をはじめ羅臼町など近隣自治体の合同主催だが、こうした動きに政府の意向が入っていないと考える人はいまい。
得能さんは「安倍さんの意向を、首長(石垣雅敏根室市長)が忖度したのでしょう」と語るが、この日、肝心の市長は東京大会に出かけて不在だった。波多雄志根室市議(84)は、「昨年12月の東京の行進でもシュプレヒコールもしないなど、最近おかしなことになっていたが、一番大事な地元でこんなことになるのなら、大会なんか開かないほうがいい」と話す。得能さんも「ここまで我慢させられるのなら、安倍さんは色丹島を取り戻してくれるのでしょうね」と話す。