ベトナムをはじめとするアジアの新興国で、日本への「留学ブーム」が起きるのは12年頃からだ。以降、日本へと渡ってきた留学生たちは、日本語学校から専門学校や大学を経て、今後続々と就職時期を迎えていく。そのタイミングで、政府は留学生の就職緩和策を打ち出した。急増した留学生たちを就職させ、日本に引き留めたいのである。
社会の底辺に固定する弊害
留学生のアルバイトと聞けば,コンビニや飲食チェーンの店頭を思い浮かべる人が多いことだろう。しかし、店頭での仕事ができる留学生は「エリート」だ。日本語も不自由な“偽装留学生”たちは、普通に生活していれば日本人の目に触れない現場で働いている。コンビニやスーパーで売られる弁当や総菜の製造工場、宅配便の仕分け現場、ホテルの掃除といった夜勤の肉体労働がその典型だ。
彼らのなかには、大学や専門学校に通っていても日本語に不自由する者が少なくない。“偽装留学生”を受け入れている学校は、学費さえ収めてくれれば留学生の日本語能力や学力には関心がない。一方の留学生も、学校に在籍するのはビザを得る手段と割り切っている。
そんな“偽装留学生”たちにとって、今後は日本で就職できる可能性が大きく広がる。専門学校を卒業した留学生の就職先に関し、法務省は「クールジャパン」に関連する仕事しか認めないとしているが、具体的な職種までは挙げていない。「日本の弁当文化を学ぶため」「牛丼を母国で広めるため」といった理由で、弁当工場や牛丼チェーンへの就職も認められるかもしれない。そうなれば、留学生たちはアルバイト先に就職し、これまでと同じ仕事をすることになる。実は政府の本音も、こうして留学生を単純労働者として利用するところにあるのではなかろうか。
ひとたび就職すれば、就労ビザの更新は難しくなく、日本で「移民」となる権利を得るに等しい。とはいえ、日本語も十分にできない留学生には、就職してもキャリアアップは望めない。それもまた、低賃金・重労働の担い手を求める企業側には好都合なことである。だが、彼らを社会の底辺に固定することは、さまざまな弊害も招きかねない。景気が悪くなり、人手不足が緩和すれば、失業も問題となるだろう。そうなれば、治安の悪化も懸念される。
安倍政権は「移民政策は取らない」と繰り返すだけだ。政策なしに実質的な移民が増えていく。昨年秋には、これまで来日を認めていなかった外国人「単純労働者」の在留資格を創設する改正入管法も成立した。「熟練した技能」を条件に、単純労働者の永住も可能になる。
「移民政策」もなく、「人手不足」だからと移民を受け入れれば何が起きるのか。それは50年前にドイツなど欧州諸国がたどり、のちに苦い経験を味わうことになった道にほかならない。
(文=出井康博/ジャーナリスト)