静岡県都構想
こうした県と市の対立は、2010年頃に世間から二重行政と批判されるようになった。それは、大阪府と大阪市の対立が耳目にのぼるようになったことが発端だ。
大阪府の橋下徹知事(当時)は、大阪府の指示に従わない大阪市の態度に業を煮やし、大阪市を廃止する大阪都構想を提唱。都構想を実現するために府知事の職を辞して、市長選に出馬するという奇襲に打って出た。11年の大阪W選で、橋下氏は邪魔者だった現職の平松邦夫市長に勝利し、さらに府知事に盟友の松井一郎氏が当選。松井・橋下というW維新体制を確立させた。この選挙により、都構想は実現に一歩近づく。
その後の住民投票で都構想は僅差で否決されたものの、いまだW維新体制は継続中。維新陣営は再挑戦を訴え、現在も都構想を進めている。
一方、静岡県では川勝知事が静岡県と静岡市を合併する静岡県都構想を掲げている。静岡県都構想は、いうまでもなく大阪の都構想をベースにしている。静岡県都構想は静岡県と静岡市とが合併することで二重行政の廃止を掲げる。そこには静岡県と静岡市との権限争いに終止符を打とうとする目的も内包している。
大阪と静岡が大きく異なるのは、市民のスタンスだ。住民投票で否決されたとはいえ、大阪では都構想に有権者の半数近くが支持を表明した。対して、静岡県都構想は地元財界や市民からの反対が根強い。そこには田辺市長が地元・静岡市の出身であるのに対して、川勝知事が静岡県の出身ではない外様であることも一因とされる。
しかし、田辺市長を支持し、静岡市を廃止する静岡県都構想に嫌悪感を示すのは、そうした部分だけが理由ではない。「静岡市を廃止する」という川勝知事の構想そのものに反発を覚えていること、川勝県知事のスタンスが県都・静岡市を軽視しているという印象を市民から抱かれていることだ。
「静岡市を邪魔な存在と見る川勝知事にとって、静岡市の田辺市長は不倶戴天の敵。それだけに静岡市長選に対立候補を立てて、なんとか落選させたい。本音を言えば、自分の子飼いだった副知事を擁立したかったところでしょう。それはともかく、田辺市長を相手に不戦敗は避けたい。田辺市長を引きずり落ろし、なんとしても静岡県都構想を実現させたい。77歳という高齢の天野元市長を担ぎ出した背景には、そうした気持ちが強く表れているように感じます」(地元紙記者)
今回の静岡市長選、当然ながら川勝知事は天野候補の支援に回った。この選挙は静岡県と静岡市の合併、いわゆる静岡県都構想の趨勢を占うことにもなる。そして、その静岡市長選でも自民党は分裂状態にある。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)