検察側は冒頭陳述で「補助金申請のための虚偽の契約書を作成した」と主張し、詐欺罪で必要要件となる「だます意図」もあったとした。弁護側は、「共謀や故意はなく詐欺は成立せず、補助金適正化法違反にとどまる」と反論した。泰典氏は法廷で最後に「凛と咲く、日の本一の夫婦花」と締めくくった。
裁判所から出てきた諄子氏は「お父ちゃんと一緒ならどんなことも乗り越えられる。神様にお任せです」と笑顔で去った。この日、朝から自宅を訪れた報道陣に向けて泰典氏は別に新作を2句謳っている。この夫婦、相変わらず報道陣を引き付けて離さない。
工事業者無罪放免は司法取引?
さて、この裁判で籠池氏は「手続きは業者に任せていた」と強調する。弁護側の冒頭陳述も「検察は工事業者と違法な司法取引をし、夫妻に不正受給の責任を負わせた」とした。泰典氏はそれを含めて「国策だ」と強調する。要は「籠池=大悪人」のイメージを確定させることが、彼に多くのことを暴露された安倍夫妻サイドを利するということだ。
工事を請け負った会社(吹田市の藤原工業)は、籠池氏に請われて建設費や設計費につき実際よりはるかに高い金額を書いた。それが何の目的であるかくらいわかるだろう。筆者も2年前の取材時、「普通に考えれば藤原工業は共犯ではないか」と思っていたが起訴もされなかった。一般に客に請われて飲食店などが実際より高く書いた領収書を出すこともある。それが罪に問われることはまずない。しかし、この事案はそんなレベルのことではない。
ある検察OBはこう漏らす。
「建築会社も実際よりはるかに高い契約金や見積もりを書かされて、わからないはずはない。その意味でも事実上は共犯です。ただ、大阪地検は籠池氏を落とすためにも建設会社の協力が必要。検事は起訴しないことを匂わせて調書作成に協力してもらい、業者は目的がわからなかったかのように犯意を薄めた巧みな調書をつくる。露骨に司法取引しないでも、そういうやり方はある。事実上は司法取引ですけど裁判官もこういう例は多く知っており、違法な司法取引だと主張して無罪を勝ち得るのはかなり難しいでしょう」
さて、メディアに囲まれる籠池氏は、「政権中枢の不正を暴くヒーロー」と自己陶酔している様子だが、補助金詐取も事実なら巨悪である。それを棚に上げての批判なら「信頼できない方のおっしゃることですから」と逃げる安倍首相の印象操作に格好の材料を与えてしまう。「国策」を強調する前に謙虚な態度を示すことも必要だろう。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)