契約書の作成日は15年12月3日。新たな埋設ごみの存在を藤原工業が見つけたのが、翌年3月である。16年初頭から校舎建設工事に入った後、基礎杭を打っていた同年3月11日に見つけている。その後試掘調査を経て、埋設ごみの総量を予測し、4月14日に国交省が約2万トンとし、その撤去費用を約8億2000万円と算定している。なぜ藤原工業がこの金額を前年度に知っていたのか。単なる偶然ではあるまい。公訴状の記載内容を追いかけてみる。
工事代金は、
(1)14億4000万円(税込み15億5520万円)であったのに、
(2)22億800万円(同23億8464万円)として偽り、それに合わせた補助金を詐取したとの記載がある。
(3)公訴状では、工事代金は税抜きで記載されているが、消費税込みでの2つの金額を差し引くと、
(2)-(1)は、23億8464万円―15億5520万円=8億2944万円である。新たに見つかった埋設ごみの撤去金額とほぼ同じ金額になっている。検察が作成した公訴状では、消費税込みの金額ではないため、(2)-(1)は7億6800万円となり、この差額の意味をとらえきれていない。検察は意識的だったのか。
これらの金額が別々に記載された2通の契約書は、藤原工業が作成したものである。普通に読めば、(1)は校舎建設費の契約書、(2)はその建設費に埋設ごみの撤去費を追加した分の契約書だと考えられる。この補助金詐欺事件は、2通の工事請負契約書(本工事契約書)を作成し、校舎建設費を8億2000万円水増しし、その分、補助金を詐取したというのが容疑事実である。
なぜ藤原工業は、埋設ごみの問題やその金額を予知できたのか
校舎建設工事費の契約書が2通あるのは不自然だが、新たな埋設ごみが、もし本当にあったとして、その分を加味した契約書を2通作成したということになれば、特に問題はない。論点は本当に埋設ごみがあったのかという点や、なぜ3カ月後に起きる埋設ごみの問題やその撤去費用を藤原工業は知っていたのか、ということになる。
埋設ごみが、あったのかどうかという点については、国(財務省近畿財務局や国交省大阪航空局)は、校舎建設を請け負った藤原工業から以下のような経過で報告を受けると、現地調査と2度にわたる試掘調査を行い、試掘写真資料に基づき、「埋設ごみはあった」とし、8億円の値引き契約を了解している。
16年3月11日:近畿財務局が「基礎杭を打つ工事中に、地下から新たな埋設ごみが見つかった」という藤原工業からの報告を受ける。その後、次のような経過をたどる。
3月14日:近畿財務局現地確認
3月30日:試掘調査―17枚写真資料(近畿財務局作成)
4月5日:試掘調査―21枚写真資料(大阪航空局作成)
4月14日:国交省売却決定。埋設ごみ約2万トン、撤去費約8億2000万円
つまり、国も16年3月から4月にかけて、学園用地に新たに約2万トンの埋設ごみの存在を認め、その撤去費を約8億2000万円と認めている。したがってその意味では、森友学園と藤原工業の間で、校舎建設費と埋設ごみの撤去費を含む2通の契約書があったとして不思議ではない。
問題の核心は、そもそも国が認めた2万トンの埋設ごみが、実際にあったのかという点と、藤原工業は、撤去費約8億円の金額をどこで知ったのか、ということになる。森友問題の火付け役である木村真市議が、16年5月頃からこの学園の様子に注目を払い、調べ始めた。写真3は、当時木村市議が撮影した工事着工直後の学園の様子である。
木村氏は、国有地がいくらで払い下げられたのかを情報開示請求したが、それが開示されず、開示を求めて提訴したのが17年2月8日。記者会見して、NHK関西と関西テレビが報じた。NHKでは相澤冬樹記者が取材していた。その翌日、朝日新聞が周辺の地価相場の10分の1の価格で払い下げられたと全国版で報じた結果、森友問題は一気に全国化し、国会でも取り上げられることになった。
もし木村市議がこの問題に気付くことなく、国による森友学園への国有地払い下げがそのまま行われていれば、次のような経過になっていたと考えられる。
・国は森友学園に鑑定価格9億5600万円の土地を約8億2000万円値引き1億3400万円で売却。
・森友学園は、藤原工業に購入した土地の「新たに埋設されていた約2万トン」の撤去を依頼し、その代金約8億2000万円を支払う。
・埋設ごみ約2万トンを撤去すれば、土地の値段は鑑定評価通りに戻り、約9億5600万円となる。それを担保にして銀行からお金を借り、その金で建設費などの支払いの1部に充てる。
このように考えれば森友学園は、埋設ごみの有無にかかわらず、学園用地を入手できれば、土地を担保にして校舎建設や工事に必要な資金の融資を受けられる。そして、藤原工業はもともと3m以深に埋設ごみはなかったのだから8億2000万円を不正に入手することになる。
では、実際はどうであったか。新たな埋設ごみは存在したのか。
(1)16年の藤原工業の建設工事の結果、報告された産廃マニフェストによると、建築に伴って廃棄された産廃である新築系混合廃棄物は、194.2トンであり、地下から掘り出した埋設ごみはゼロであった。
(2)これまで国が同地で行った地層調査でも(表1参照)、3m以深(より深い)の深さは堆積層となり、埋設ごみは出るはずもなかった。
(3)埋設ごみが地下深部(3m以深)から出たという試掘写真資料は、偽装されていて証拠資料とはなり得なかった。
以上より、埋設ごみはなかったと考えられる。籠池氏が逮捕された補助金詐欺事件について籠池氏自身は、「首相官邸の意向と官邸への忖度で財務省が動いた重大事件から、国民の目をそらせるための別件逮捕である」と初公判で述べている。筆者もそのように考える。何しろ森友問題では、籠池氏は当事者でありながら、真実を求める国民の側に立って、事件の詳細な経過事実や資料を発表し続けてきたのである。
森友問題の本丸は、9億5600万円の鑑定価格の国有地を、なぜ8億2000万円も値引きして売却したのかという点である。近畿財務局、大阪航空局の官僚が関与し不当に払い下げた背任行為は明らかである。
では、存在しないごみをあるとしたことにより、誰が得をするのか。前述の通り、埋設ごみ2万トンの撤去費用を何もせず得ることのできる藤原工業である。もし藤原工業が一番高い金額の請求書に基づき、森友学園から約23億7000万円を受け取っていれば、約8億2000万円の不正な儲けを得たことになる。もちろんゴミがないことを知っていた官僚たちも、藤原工業に“分け前”をねだることになっていたかもしれない。「背任罪は、不当利得を得た第三者がいることが条件となる」(元検事・郷原信郎氏)。その意味で藤原工業は背任罪構成の重要なポイントにいたことになる。
小川敏夫参議院議員は、「検察が共謀者と特定しながら、なぜ藤原工業の家宅捜査を行わなかったのか。本丸追及への意思がなかったと見られても仕方がない」と語る。今回検察審査会からも指摘されたように、検察はなぜ8億2000万円の値引きがされたのかについて、事実に基づく捜査を行っていない。その鍵は藤原工業にある。
振り返って、NHKによる野党批判報道は、この藤原工業の言い分を全面的に認めた報道であった。NHKは、森友問題の陰の主役であるとんでもない事業者の発言を鵜呑みにして野党批判を行っていたことになる。そして多くの善良な国民の目を、真実から逸らせることになる。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
【表1】:これまでの国の主張と主な経過
2010年 大阪航空局が埋設ごみを調査。3mまでの深さに680tとの調査予測。
2012年 大阪航空局が深度調査(ボーリング調査)。3m以深は沖積層。
2013年 森友学園が同用地の取得を要望
2015年
5月29日 国と森友学園が貸与契約
7~12月 森友学園から請負った株式会社中道組が土壌改良工事。953tの埋設ごみを撤去。中道組は翌16年5月2日に産廃マニフェストで合計953.1tの埋設ごみを掘り出したことを報告している。
2016年
1月~ 森友学園から請負った藤原工業が校舎の建設工事を開始。
3月11日 森友学園(藤原工業)から連絡があり、9.9mの基礎杭を打っているとごみが地下深部から出てきた。
3月14日 近畿財務局、大阪航空局が、現地に立ち会って、様子を撮影。試掘を指示。
3月25日、30日 業者が8カ所掘削
3月30日 近畿財務局職員が17カ所撮影→「17枚写真資料」
4月5日 大阪航空局が掘削指示。掘削穴と掘り出した埋設ごみを21カ所撮影→「21枚写真資料」
※国は17枚写真資料と21枚写真資料によって、約8億円の値引きを決断した。
4月14日 国交省埋設ごみ2万トンの撤去費8億1900万円を見積
4月22日 近畿財務局が山本不動産鑑定士に鑑定依頼
5月31日 上記山本鑑定、更地価格(9億5600万円)のみ鑑定
6月20日 売買契約
2017年
5月19日 藤原工業が産廃マニフェストを提出。「新築系混合廃棄物」が「194.2トン」と記載されており、2万トンの約100分の1。埋設ごみは「ゼロ」。
※1:NHK「森友学園問題 立民・共産の議員の発言に工事業者反論」報道の内容(以下、引用)
<森友学園への国有地売却をめぐり、立憲民主党と共産党の議員が、現場を試掘して報告書を作成した工事業者から説明を受けたあとに発言した内容について、工事業者は「正確に引用されておらず、まったく異なる意味内容となっている」などと反論しました。森友学園への国有地売却をめぐって、立憲民主党と共産党の国会議員は先月、ごみが埋まっていた現場を試掘し、報告書を作成した工事業者から説明を受けました。そして、説明を聞いた両党の議員は、野党側のヒアリングで、「工事業者は『報告書は若い社員がいいかげんに作ったもので、深さを意識してつくったものではない』などと話していた」と述べました。これに関連して、工事業者が参議院予算委員会の理事懇談会の求めに応じて弁護士を通じて回答した資料が4日、提出され、この中で工事業者は「私の説明した発言内容が正確に引用されておらず、発言の一部のみを引用し、都合よく発言内容を合体したため、まったく異なる意味内容となっている」などと反論しました>
参考:「森友 ごみは無いのになぜ8億円の値引き」(イマジン出版、青木泰著)