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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

北朝鮮、「自由朝鮮」が臨時政府樹立を宣言…金正恩体制崩壊を狙いテロ活動、米国も関与か

文=相馬勝/ジャーナリスト
北朝鮮、「自由朝鮮」が臨時政府樹立を宣言…金正恩体制崩壊を狙いテロ活動、米国も関与かの画像1第2回米朝首脳会談(写真:AP/アフロ)

 スペインのマドリードで2月下旬に起きた北朝鮮大使館襲撃事件に関与したとみられる「千里馬民間防衛」は3月1日、「自由朝鮮」と名前を変え、同11日に発生した駐マレーシア北朝鮮大使館の塀に落書きをしたことがわかっている。さらに、20日には同組織のホームページ上に、金日成主席と金正日総書記の肖像画が床にたたきつけられる動画を公開。ガラスが割れて破片が飛び散る映像のあと、「金日成、金正日、金正恩神格化を打倒する。祖国のために我々は立ち上がる!」という字幕が続いた。この模様は駐スペイン北朝鮮大使館を襲撃した際、撮影したとみられる。

 では、自由朝鮮という組織の実態はなんなのか。自由朝鮮は3月28日、新たに声明を発表して、「北朝鮮を脱出し、世界各国にいる同胞が結集した脱北民の組織」としたうえで、「我々は行動により北朝鮮内の革命同志とともに金正恩(キム・ジョンウン)政権を根元から揺さぶるだろう」と主張し、「さらに大きなことが控えている。メディアは我々の組織の実体や構成員に関する関心を自制してほしい」と求めている。

 自由朝鮮は最近、欧州や東南アジアなど拠点を置き、金正恩体制打倒のための「臨時政府」の発足を宣言、金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄で2017年2月にマレーシアで暗殺された金正男氏の長男、金ハンソル氏を最高指導者に担いでいることを明らかにしており、「(北朝鮮において)金氏一家の世襲を切るつもりだ」と強調している。

 これらの声明から判断すると、自由朝鮮は、金正男氏が武器の密輸や金委員長らへの贅沢品買い出しなどのため海外で組織した秘密機関に属する、金氏の元側近や元部下、脱北者らによって結成されていることがわかる。なぜならば、自由朝鮮の前身の千里馬民防衛は17年2月、金正男氏がクアラルンプール国際空港でVX神経作用剤による攻撃で殺害された後、同年3月7日にハンソル氏と家族を安全国家に逃避させたと主張しているからだ。

米FBIやCIAとの関係も取り沙汰

 それでは、なぜ駐スペイン北朝鮮大使館を襲ったのかという疑問が残る。報道によると、大使館を襲った一味約10人は館内のコンピューターや携帯電話を奪って逃走したが、これらのコンピューターなどには北朝鮮による制裁逃れや欧州からの高級品密輸に関連する連絡先や文書が含まれている可能性があるからだという。

 2月末の米朝首脳会談における北朝鮮側の交渉責任者だった金革哲・国務委員会対米特別代表が約2年前までスペイン大使を務めており、一味は金氏がこれらの活動に関与していた情報も探していたようだ。これについて、在京の北朝鮮ウォッチャーが以下のように解説する。

「北朝鮮大使館内から盗まれたコンピューターや携帯電話内の情報は米中央情報局(CIA)など主要国の情報機関にとっては極めて貴重なものといえる。自由朝鮮は西側からの資金援助や情報交換、組織の保護を受けているとも考えられる。彼らは殺害された正男氏が海外で組織した秘密組織の一員だったとすれば、かつては朝鮮労働党や朝鮮人民軍などのエリートだったが、正男氏の死去で行き場を亡くし、世界中を流浪する漂泊の亡命者といえ、彼らは『金正恩体制打倒』を旗印に掲げざるを得ない立場に追い込まれているのではないか」

 このような見方を裏付けるように、 北朝鮮外務省報道官は3月末、「今回のテロ事件に米連邦捜査局と反共和国団体の端くれが関与しているなどの各種の説が出ていることに我々は注目している」と明らかにしたうえで、スペイン大使館の事件を「重大なテロ行為」と糾弾。さらに、「外交代表部に対する不法侵入と占拠、強奪行為は国家の主権に対する厳重な侵害であり、乱暴な国際法の蹂躙だ」と強く批判した。

 北朝鮮の金委員長は先の米朝首脳会談が決裂したことで、外交的に苦境に陥ったとみられるが、北朝鮮が自由朝鮮なるグループを「反共和国団体の端くれ」「武装暴漢」「テロ分子」として非難。さらに、このようなテロ組織と米FBIやCIAとの関係が取り沙汰されており、北朝鮮は今後、自由朝鮮について、トランプ政権を批判する材料として使うことで、米国よりも優位に立とうという思惑を抱いているようにみられる。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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