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NHK受信料、携帯所有者も支払い義務化へ…「不払いだと視聴不可」が実現されない理由

文=深笛義也/ライター
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 だが、中立的な立場の報道機関の必要性という観点に立てば、民放テレビ局も放送法で「公平な報道」を義務付けられている。

「ジャーナリズムの主要な役割に『権力の監視』があって、たとえば、“安倍首相、素晴らしい!”というような内容ばかり垂れ流す放送局があったら、それは報道ですか? という話になりますよね。安倍政権に近いとされるフジテレビであろうが日本テレビであろうが、露骨に安倍首相のヨイショをしてるわけではないです。私がいた日本テレビだって、南京虐殺の問題をドキュメントでやったりしています。それはいろいろ多様なんだと思います。

 逆に、安倍政権を批判する放送があったとして、それをもって中立公正じゃないといえるかというのも、非常に難しい議論になると思います。ただ、NHKの場合は視聴者から報道が偏ってると思われると、受信料を進んで払う人が少なくなるということもあるし、いろんな手続きが国会で承認されないといけないわけですから、民放以上にナーバスにならざるを得ないという構図があると思います」

「中立公正な報道」の難しさ

 昨年末、『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)が刊行された。著者は森友学園問題を追っていた、当時NHK大阪放送局の司法担当キャップだった相澤冬樹氏。地を這うような取材で特ダネをつかんでも、その後には、森友学園と安倍官邸のつながりをなんとか薄めた放送にしようとする上司とのせめぎ合いが続いたことが書かれている。

「NHKの中で代々受け継がれてきた、報道の側が持っている意識があったわけですけど、それさえも忖度しちゃってダメだと言われたり、あるいは放送されないとか、そういうことが起きてしまっていたわけですよね。それはNHKという組織に対する信頼性が今非常に傷ついている状態だと思います。ニュース報道においては、政治部的な報道の仕方、社会部的な報道の仕方があります。

 政治部的には森友学園でいろんな刑事事件にもなっているわけですから、そのことが安倍政権の維持だとか、今後の政治動向にどういう影響を与えるのかというのが一つの論点です。社会部的には司法として詐欺事件なのか、それとも財務省の背任なのかという論点があるわけです。背任のほうは全然立件されてないじゃないかということで、検察審査会にもかかっているわけですけれども、立件はされない方向になっています。そこで相澤さんたちがやりつつあった報道というのは、結局詐欺の話ばっかりがクローズアップされている、それでいいのかっていう社会部的な正義でしょう。そこをちゃんと報道してないじゃないか、って思う記者たちがいるのは当然です。

 そこはNHKという組織の報道の内部の自由ですよね。トップが右行けば皆が右行くわけではなくて、それぞれの細かな自由が本来あるはずです。それは産経新聞だろうが読売新聞だろうが、あるわけですよ、個々の記者には。報道する価値のある情報で、裏付けがちゃんと取れていれば報道するというのが報道マンのセオリーです。でも、それをやらなかった。それはどうしてだって相澤さんは怒っているわけです。それは非常によくわかる話。少なくとも、そういうことをちゃんとやれるからNHKって信頼できる、となっていたと彼は思っているはずです。

 NHKだけが知っていて、これは間違いない事実なんだという話だったら、それは伝える。それは偏向でもなんでもなくて、考えるための材料を国民に提供するという、きわめて公共性の高い仕事です。中立か中立じゃないかっていう話は、割と意味がないんです。それぞれの記者なり制作者がどんな考え方を持っているかというのは、本当にバラバラですから。

 相澤さんの森友報道に介入した上司というのも、それぞれ思惑があるわけです。たとえばゆくゆくは会長になりたいと思っている報道局長がいたとしたら、安倍首相に都合の悪い報道は抑えておいたほうが覚えがめでたいかなっていう忖度の仕方もあるでしょう。単純ではないです。すべては安倍政権の思惑通りに、一元的にコントロールされているということではないと思います」

 あくまでも森友学園問題を追及しようとしていた相澤氏は、考査部への異動を告げられる。記者から外されたのだ。相澤氏はNHKを辞め、大阪日日新聞の記者となった。

「この種のものはわからないです。私も組織を辞めた人間なのでそうでしたけど、いろいろ言われるわけですよ。森友問題を追求しているから、組織にとっては癇に障るというか、ちょっと困った奴だ、やりすぎだよな、分をわきまえろよといって記者から外したかもしれない。ただ、それだけじゃない理由もおそらくあるでしょう。人事というのは、いろいろありますから。同期がどんどん管理職になっているなかで、彼は現場のデスクをやっていたわけで、それ自体が異例のことだったわけですよ。会社を辞めるときはいろんな事情があったり、いろんな思いがあったりするから、単純ではないと思います」

(文=深笛義也/ライター)

※後編に続く

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