香港が危険地帯化、市民が大脱出…大規模デモに警察が過激な暴力、中国習近平指導部が屈服
香港では16日、前日の15日に香港の最高指導者、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が表明した「逃犯条例(犯人引き渡し条例)」改正案の審議を当面延期するとの決定を受けて、民主派グループは大規模デモを行い、改正案の撤回を強く訴えた。ラム長官は「改正案の撤回はしない」と明言する一方で、「年内に審議に入ることは難しい」との認識も示しており、「審議延期」の表明は実質的な「敗北宣言」に等しい。
この背景には、ラム長官ら香港指導部が経済界の意向を見誤ったことと、習近平中国共産党指導部が、米中貿易戦争と香港問題によって国際社会からの反発が強まることを恐れ、腰砕けになったことがある。これによって、習国家主席の指導力が問われることになり、党内の反対派から吊し上げられるなど、権力闘争に発展する可能性も出てきた。
ラム長官の強硬路線に強い反発
香港では1週間前の9日、条例改正反対を訴えた大規模デモに103万人もの市民が参加。これは1997年の香港の中国返還反対デモ以来最多だっただけに、香港市民が改正案に強い懸念を抱いていることが明らかになった。さらに、10日未明には、民主派勢力の一部が立法会周辺に集結し、幹線道路を封鎖しようとして警官隊と衝突。警官隊は市民を警棒で殴ったり、マスタードガスを吹きかけるなどして、抵抗する市民らを撃退し、数百人の身柄を拘束、19人を逮捕した。
抗議行動はこれだけで終わらなかった。12日朝から多数の若者が立法会周辺に集結し、10日同様、幹線道路を埋め尽くしことから、12日夕、警察が強制排除を強行し、催涙ガスやゴム弾を使用、警棒でデモ隊を殴打するなどして、翌未明までにデモ隊の排除を完了。このような権力側の暴力的な行為に対して、香港メディアや市民団体の批判が集中した。
立法会は13日からの審議の一時中断を決めたものの、この時点でもラム長官はまだ強気で、改正案の採択に強い意欲を示していた。
潮目が変わったのは15日。中国共産党の最高幹部7人で構成する党政治局常務委員会の序列7位で、香港マカオ問題担当の最高責任者、韓正・副首相が香港に隣接する広東省深セン市まで出向き、ラム長官を呼び出して会見。その際、「改正案の審議延期」の引導を渡したのだ。これはラム長官抜きで決まったようだ。中国政府と強いパイプがある香港政府の諮問機関トップの陳智思(バーナード・チャン)氏が「このような状況で条例案の審議を続けるのは難しい」と韓氏に吹き込み、韓氏も同意。ラム長官は梯子を外されたかたちだ。