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富と名誉を享受し、責任は回避――韓流アイドルたちの暴走【前編】

ビッグバンのスンリ、偉大なる実業家からの転落…韓国社会にはびこる性接待、警察との癒着

取材・執筆=Dan Ryu【韓国紙記者】、翻訳・構成=河鐘基
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ビッグバンのスンリ、偉大なる実業家からの転落…韓国社会にはびこる性接待、警察との癒着の画像12019年5月14日、令状実質審査に出席するためにソウル中央地方法院に到着したBIGBANGの元メンバー、スンリ。(写真:Mydaily/アフロ)

 飲酒運転、麻薬、売春斡旋にセックス動画の不法撮影&流布。これらは、マフィア組織が犯した罪ではない。韓国国内だけでなく、アジア全域で大きな人気を誇る韓流アイドルおよび有名スターたちが、ここ最近になって立件された罪状の数々である。

 なかでも最近、社会に最も大きな衝撃を与えたのは、人気グループ「BIGBANG(ビッグバン)」のメンバー・スンリ(V.I)に絡む事件だろう。スンリは事件を起こす前、「スンリチュビ」(スンリとグレートギャツビーを合わせた造語)と呼ばれ、韓国社会で脚光を浴びていた。複数のテレビ番組に出演し「成功した実業家」として自身のイメージを売り出していたのだ。

 アイドル出身者が実業家として成功するのは珍しいことだ。しかもスンリは、「ほかのアイドルとは一線を画している」と自ら強調してきた。ほかのアイドルは、他人のビジネスにイメージやブランド、名前を貸すことがせいぜい。だが、スンリは「自分は何から何まで決定し責任をとる」と豪語していたのだ。韓国の視聴者は、英語、日本語、中国語を駆使して、アイドル出身の実業家として活躍するスンリに熱狂していた。

「スンリはビッグバンの中で最も注目を受けなかったメンバー。ほかのメンバーは作曲能力(G-DRAGON)やスター性(テヤン)、演技力(T.O.P)で、活躍の場を広げてきましたが、スンリはその間、特別な活躍ができずにいました。そのスンリが実業家に転身したというニュースは、ファンにとって大きな喜びだったのです」(韓国現地紙記者O氏)

 才能がないタレントが、努力の末に大成功を勝ち取る――。そのようなストーリーは世の中に受け入れられやすい。NETFLIXでは、スンリを主人公にしたYG(所属事務所)の短編映画も製作されたほどだ。ただしその映画は事件後、スンリやYG、そして韓国芸能界が持つ“暗黒面”をさらけだす新たな資料としても活用されるようになるのだが……。

高級酒のセットは約1000万円

 スンリが犯した罪は、ある偶然で発覚した。2018年11月、スンリが経営に携わっていたクラブ「バーニングサン」(Burning Sun)で暴行事件が起き、その後、芋づる式に犯罪の数々が露呈していく。

 バーニングサンは、一般人にとって憧れの対象だった。高級酒のセット「マンスールセット」(アラブの金持ちの名前を冠したセット)の価格は1億ウォン(約900万円)。このセットを頼むことが、韓国社会では一種の成功と考えられていたほどだ。今思えば、異常な事態である。それでも事件が発覚するまで、一般の人々はスンリの“努力の末の成功”を信じて疑わなかった。

 ただしその後、バーニングサンとスンリの暗黒面が顔をのぞかせ始めると、事態は一転する。バーニングサンで暴行を受けたと主張する青年が現れ、“火消し”ともとれる不可解な警察の動きがきっかけとなった。やがて、警察とクラブが癒着しているというスクープが報じられ、さらにクラブの中で麻薬パーティーが行われていたという事実が明らかになっていく。

「とある有名小説では、経済的に成功した“上位1%”の人々が、江南で毎晩、麻薬やセックスパーティーを繰り広げているという話がありました。バーニングサンの事件が露見し、それが本当だったと人々が知るようになったのです」(前出・O氏)

 自らすべてを決定し責任を取る。そうメディアに豪語していたスンリの変わり身は早かった。事件発覚後、「私は経営に関与していなかった」と弁明し始めたのだ。これは、過去に韓国の有名人が行ってきた釈明と同じだった。つまり、「私は知らぬ存ぜぬ」というわけだ。視聴者や一般人は、過去になされたそのような有名人たちの釈明に失望してきたが、責任を負う姿はまったく見せず、まるで数学の公式のように言い訳だけを並べたてるスンリも、「やはり同じ穴の狢(むじな)」だったと見放されていく。

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ビッグバンのスンリ、偉大なる実業家からの転落…韓国社会にはびこる性接待、警察との癒着の画像2『SEUNGRI 2018 1st SOLO TOUR [THE GREAT SEUNGRI] in JAPAN』(発売:YGEX)

既得権益層に甘い韓国社会

 その後、明らかになった事実を見ていくと、スンリは、同種の事件を起こしたほかの有名人よりもよほど悪質だった。自分のクラブに東南アジアの有力者を招待し性接待を行ったり、中国系暴力組織「三合会」のメンバーが台湾の有力者と一緒にバーニングサンを訪れたという証言も出てきた。スンリはその際、韓国の芸能人はもちろん、接待用の女性を動員した。警察と癒着して、そのような違法性のある事実をもみ消してきた事実も次第に暴露された。犯罪の役満、ロイヤルストレートフラッシュである。

「スンリの事件については、ファンはもちろん、韓国の多くの人々が驚愕しました。麻薬や性接待、警察との癒着は、韓国で事業を行うための悪しき“伝統的”な方法だったからです。スンリはスンリチュビではかった。おじさんビジネスマンのような“オールドボーイ”だったのです。スンリとバーニングサンの事件は、韓国社会の暗部をかいま見せてくれた。その暗部には、スンリの大成功に熱狂してきた一般の人々の感覚も含まれているでしょう」(前出・O氏)

 韓国社会は、政治家や財閥のような既得権益層に甘い社会である。力がある人々の犯罪は、“寛容”にもみ消されてきた。スンリは政治家でも財閥出身者でもないが、21世紀に入って韓国社会で富と名誉を最も素早く吸収してきた新興層のひとりだ。

 現在、韓国の芸能人は、犯罪や社会的物議を醸したとき、これまでの既得権益層のような“もてなし”を受け始めている。反省は短く復帰は早い。この事実は、力ある人々は富と名誉は享受するが、責任はまったく負わなくても許されるといういびつな構造が、韓国社会に根強く残っていることの証明だ。またそういういびつな構造が厳然と存在するからこそ、韓流アイドルの事件は、起こるべくして起こるのである。
(取材・執筆=Dan Ryu【韓国紙記者】、翻訳・構成=河鐘基)

河鐘基

河鐘基

1983年北海道生まれ。株式会社ロボティア代表取締役。テクノロジー専門ウェブメディア「ロボティア」を運営。著書に 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」(扶桑社新書)、「ドローンの衝撃」(扶桑社新書)、「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」(光文社)。訳書に「ロッテ 際限なき成長の秘密」(実業之日本社)、「韓国人の癇癪 日本人の微笑み」(小学館)など。

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