2027年までの5年間の香港特別行政区トップである次期行政長官に、現在ナンバー2の李家超(ジョン・リー)政務官が就任することが確実となった。現在のトップである林鄭月娥(キャリー・ラム)長官が「家族を大事にしたい」として、5月8日投票の次期長官選挙への出馬を断念したからだ。李氏はすでに出馬表明を行い、香港の各政党や経済団体などを訪問し支援を要請するなど選挙活動を精力的にこなしており、長官選挙の投票権を持つ1463人のうち、すでに立候補に必要な188人を優に上回る300人の支持を固め、目標の500人に迫るなど独走態勢に入っている。
李氏は、中国の最高指導者、習近平国家主席の信任が厚いことから、他の有力者も立候補を見送るとみられており、李氏が長官に選出されるのは間違いないところだ。李氏は警察官僚出身で、多くの反対を押し切って、香港の政治的な自由を大幅に制限する「香港国家安全維持法」を制定させたあと、同法をテコにして民主化要求デモを弾圧するなど、強圧的な政治姿勢で知られており、親中タカ派の李氏の長官就任で香港はいっそう閉塞感が強まるとみられる。
習近平、警察や軍出身の幹部への信頼感強く
李氏は1957年生まれで中国広東省出身の65歳。幼いころ両親と香港に渡り、小中高と香港で学んだ。20歳で香港警察に見習い巡査として入り、2010年には香港警察ナンバー2にまで昇進した叩き上げの警察官僚。12年10月には香港政府のなかで法律問題を担当する保安局(日本の法務省に相当)の副局長、17年7月に保安局長(同、法務大臣に相当)に昇進。昨年、林鄭長官に次ぐナンバー2の政務官に抜擢された。
保安局長経験者が政務官に任命されるのは初めて。香港情報について正確さで定評があるオンライン・ニュースポータル「香港01」は「破格の大抜擢」と報じた。これについて、香港01は「李氏がここ数年の香港の民主化勢力による一連の抗議デモで、弱気な林鄭氏の判断を押し切り強硬策を展開したことが中国最高指導部の高い評価を導き出した」と報じている。
今回の長官選挙では、林鄭氏が立候補すれば再選されるのは確実とみられていた。しかし、一昨年来の新型コロナウイルス対策で、林鄭氏が当初、習指導部の「ゼロコロナ政策」を否定するなどして、香港の完全封鎖といった果断な措置をとらなかったことや、民主化勢力への対応の甘さなどから、習主席は林鄭氏について「優柔不断で判断力に欠け、外国の雑音に惑わされやすい」などと不満を漏らしていた。
これに対して、李家超氏は当時の記者会見で「香港から腐ったリンゴを排除しなければならない」と強調し、反中色が強い香港紙「リンゴ日報」を廃刊に追い込み、「香港独立」を掲げる「香港民族党」を事実上、瓦解させるなど、1997年の中国返還後の香港で初めて報道機関や政治結社の動きを封じ込めた。これを習指導部が評価したことで、林鄭氏の長官続投の目はなくなり、その代わりに次期長官候補として親中・保守強硬派の李氏に白羽の矢が立ったといわれる。
香港の外交筋は「習近平主席は一昨年初め、新型コロナウイルスが最初に発生した中国湖南省や同省武漢市の最高幹部に公安(警察)出身者を登用し、3カ月で封鎖解除に成功するなど、警察や軍出身の幹部への信頼感が強い。やはり警察官僚出身の李氏の香港トップへの起用も、文民出身の林鄭長官への不信感の裏返しといえよう」と指摘している。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)