6月17日に公開された映画『メタモルフォーゼの縁側』への批評レビューで、大手メディア編集委員で日本大学芸術学部映画学科の非常勤講師(「作品批評演習」担当)も務める古賀重樹氏が、主演の芦田愛菜が演じる17歳の女子高生について「すでに少女ではないけれど、性的な魅力にあふれるというわけでもない」などと記述し、「性的な魅力」という表現を用いたことが議論を呼んでいる。
漫画『メタモルフォーゼの縁側』(作:鶴谷香央理、KADOKAWA)を原作とするこの映画は、芦田演じる女子高生・うららと宮本信子演じる75歳の老婦人・雪が、漫画を通して交流を深めるというドラマ。脚本は『最後から二番目の恋』(フジテレビ)やNHK連続テレビ小説『ひよっこ』など数多くのヒットドラマを手掛けてきた岡田惠和氏が担当している。
“天才子役”の名をほしいままにしてきた芦田は、『岬のマヨイガ』(2021年)、『映画 えんとつ町のプペル』(20年)、『星の子』(同)など毎年のようにコンスタントに映画に出演し、冠番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日)など地上波テレビにも頻繁に出演する傍ら、現在都内の超難関私立高校に通う現役の高校生であることも知られている。ニホンモニターが発表した「2022上半期タレントCM起用社数ランキング」で15社の1位を獲得するなど、その人気・好感度の高さは無敵といっていい女優だ。
「そういうわずらわしさから自由であることを尊重している作品」
そんな芦田が今回、ベテランの大女優・宮本と共演することになった『メタモルフォーゼの縁側』。この夏の話題作ということもあり、メディアでは数多くの批評レビューが見られるなか、映画鑑賞記録サービス「KINENOTE」に掲載された古賀重樹氏のレビューが議論を呼んでいる。
古賀氏はレビュー内で主人公の17歳の女子高生について「すでに少女ではないけれど、性的な魅力にあふれるというわけでもない」としたうえで、芦田について「ある時期の高峰秀子みたいで、稀有な女優だ」と評価。さらに「昨今の日本映画には稀な清潔なドラマになっている」と綴っている。
これに対しネット上では、
<主人公につき「性的魅力にあふれるというわけでもない」なんて女を見られる側に貶める言葉が出てくるのが凄いな。そういう社会が要請したとも言える、女が対象じゃなく主体だという点に意味のある共同体を描いた映画なのに>(原文ママ、以下同)
<メタモルフォーゼの縁側は、決して演者を性的に観るものじゃないので……というか男性の方が芦田愛菜を中心に話してて、女性の方だけが関係性に触れてて同じ映画でもこんなに変わるもん?>
<ふたりの女性のあり方が、性的に眼差されずに描かれているところも重要なんだと思うのにこの評は…。そういうわずらわしさから自由であることを尊重している作品>
<なんで女の子って子供の年齢なのにやたら大人に見ようとするの?気持ち悪くない?>
<彼女を性的な目線で批評してたコラムがあったらしいけど、映画を観てそう思ったのなら目線がおかしい>
<コメント最低 映画とは関係ない性的なコメント馬鹿じゃないの>
と批判的な声が続出。
一方、以下のように古賀重樹氏の見解を擁護する声も出ている。
<このレビューのどこが「気色悪い」のかがよく分からない>
<性的な成熟が一つのテーマになっていることは疑いない>
<その怒り方に違和感が、『すでに少女ではないけれど、性的な魅力にあふれるというわけでもない。そんな中途半端な年ごろの感情』を私は女優芦田愛菜でなくて、主人公にかかってると思って読んだからだ>
ハレーションが生まれた背景
前述のとおり古賀氏は日大芸術学部映画学科の非常勤講師として「作品批評演習」を担当し、映画に関する著書などもあるが、映画業界関係者はいう。
「いわゆる映画評論家が実名で個人的な見解を発表する映画批評なので、どのような感想を表現するかはその人の自由としかいいようがない。今回の件についていえば、まだ10代の女子について“性的な魅力うんぬん”を持ち出したことがハレーションを呼んだ。さらに10代の女子を主人公に据えた作品について“清潔”だと評価していることから、“視点がステレオタイプの男性目線”だと受け止める人が出ているということだろう」
また、ここまで議論を呼んでいる背景について、家族問題評論家で家族メンター協会代表理事の池内ひろ美氏はいう。
「芦田さんは、子役の頃から『国民の自慢の娘』ともいえる愛され方をしてきた役者であり、多くの人が温かく見守り大切にしてきた女優です。令和元年には、15歳の若さで『天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典』において、皇居前広場に参集した7万人を前に見事な祝辞を述べられました。
彼女が身に纏った美しい着物は、約100年前に作られた古風で伝統的な振袖でした。和髪風にまとめられた髪型は上品で、15歳には見えない凜としたたずまいでした。彼女の美しさだけでなく、祝辞に込められた思いを表す素晴らしい言葉選びをなさっており、それは皇居前広場にいた人だけでなく、中継で聞いた人たち皆が感動したことでしょう。奉祝委員の一人として参列させていただいた私も感動で打ち震えました。
その彼女に向かって、性的な視点を持ち込み論評するというのは、失礼極まりない。ましてや、映画のテーマは性的なものではありません。そこにわざわざ性的な魅力うんぬんを持ち出して語るのは、女性に対する偏った見方があるのではないかと疑いたくもなります。女性を語るのであれば、令和の時代にふさわしい感覚を持つことが必要です」
(文=Business Journal編集部、池内ひろ美/家族問題評論家、家族メンター協会代表理事)