このような言い方が適切かどうかは別として、老若男女問わず、猫も杓子もYouTuberという状況が生まれて久しい。お茶の間のテレビ離れは加速し、テレビ局側もそれに対抗するではなく、YouTubeチャンネルを開設している状態だ。
子どもたちの将来の夢のランキングの頂点にはYouTuberが君臨するほど、社会全体に浸透してきたYouTube。一部では「このブームは長くは続かない」「必ず規制が入り厳しくなる」などの懸念を口にする専門家もいるが、確かに規制が強化され、あまたいるYouTuberが淘汰されていることがあったとしても、ここまで巨大化し、社会に定着したプラットフォームが消えることはありえないだろう。
そんな中、ここにきて、ヤクザ業界もある反応を示し出したのだ。
これまでヤクザ組織は、組織内からの情報漏洩を嫌い、対策を講じてきた。その基本姿勢は今後も変わることはないだろう。その一方で、暴対法や暴力団排除条例の影響により、ヤクザの存在自体が社会から否定される状況になっているのは承知のとおりだ。
「これまでヤクザサイドは、公式には、メディアを完全にシャットアウトしてきていましたが、現在のヤクザを取り巻く社会情勢、例えば、銀行口座ひとつ作れないといった組員の人権を無視されたような状況を鑑みれば、伝えるべきところ、訴えるべきところは積極的に広報していくことも必要と考えているのではないでしょうか。その一環として、YouTubeを活用することも視野に入れてきていますし、その指標となるケースが出てきました」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)
これまで山口組の元顧問弁護士として、あくまで一般人でありながらも、職業的立ち位置として、数多くの親分衆と接してきた人物が存在する。山之内幸夫元弁護士だ。
山之内氏は、ヤクザだからといって不当に差別されることを良しとはせず、是々非々として、例え世間でいう暴力団の組員であったとしても、当局から不条理な扱いを受ければ、徹底的に弁護し続けてきた。それは組員も1人の人間であり、基本的人権は守られるべきだと考えてのことだったのだろう。2015年にある事件に関与したとして弁護士資格を剥奪されることになる山之内氏だが、その後も書籍を出版するなどして、活発に活動を続けている。そして、最近ではYouTuberとして活躍しているのだ。
「ヤクザの中でも、山之内さんがYouTubeを開設させたときは話題になった。何よりも山口組の歴史を知る人が語る話には説得力がある。法律家として暴排条例がいかに憲法や他の法律と矛盾しているかを理解している人だ。ある組織では『山之内さんのYouTubeを参考にするように』との話も出たほど。執行部から、特定のYouTubeを観るように言われたのは始めてだろう」(業界関係者)
また、ある組織も幹部も「組織内で、ヤクザ関連のYouTubeが好意的に話題になったのは始めてのことだ」と話し、「専門家が法律に基づいて、ヤクザを必要以上に弾圧することが本当に正しきことなのかを代弁してくれることは有難いことだ」と話している。
こうした流れを踏まえて、今後、山口組自体もある程度の方向転換があるのではないかという見方のあるようだ。それは、YouTubeや他のメディアを介して発信すべき情報は自ら発信し、世論の風向きを少しずつでも変えていこうというものだ。
もちろん犯罪を犯せば、処罰されるのは当然だ。現役の組員ともなれば、それなりに刑罰も重いものが科せられるだろう。だが、生活を営む上で銀行口座を開設したり、賃貸のマンションで暮らすことすら犯罪と認定される現状は正常といえるのだろうか。
ヤクザ全体への過剰な弾圧が生み出している歪みへの反動として、個々が自由に発信できるプラットフォームが活用されていく。そうした中で社会やヤクザはどのように変わっていくのか。ひとつの分岐点に来ているのかもしれない。
(文=山口組問題特別取材班)