日本電力連盟(※電事連がモデル)理事の目を通しては、電力会社と政治家との癒着や政治献金の闇も描かれる。
「政党交付金が表の法律上のシステムとすれば、総括原価方式の下で生み出される電力料金のレント、すなわち超過利潤は、裏の集金・献金システムとして、日本の政治に組み込まれる」
「日本電力連盟が預かっている、年に400億円の、わずか0・01パーセントの額で、数年後に民自党(※民主党がモデル)に追い風が吹いても、日本電力連盟に逆らうことはない」
抜け道だらけの政治献金システム、電力利権に群がる与野党の政治家、その双方をコントロールできるとうそぶく官僚構造、さらに骨抜きにされていく発送電分離構想──。作品では原子力規制委員会と電力会社の癒着も描かれているが、これもまた現実社会で起こったことと一致する。
●卑劣な裏工作の数々
さらに日本電力連盟による、巧妙なマスコミ対策、世論誘導……。こんな卑劣なことが現実とはにわかには信じ難いかもしれない。が、これは小説という形式をとりながらの、現実に即した“内部告発”だ。
例えば、小説には再稼動に強固に反対する新潟県知事も登場する。この新潟県知事のモデルもまた、現実の泉田裕彦知事その人だろう。小説では新潟県知事が、検察をも関与する裏工作によってスキャンダルをでっち上げられるが、実際の泉田知事もスキャンダル探しのために身辺を探られていることを明かしていた。
小説の新潟県知事はついには失脚させられてしまい、新潟原発が再稼動され、福島事故の再来という恐るべき結末が待ち受けているのだ。
原発事故から2年半。東京五輪開催も決定し、多くの日本人は原発事故などなかったかのような日常生活を送っている。本書は再稼動を他人事のように捕らえている日本に警告を与えるものだ。もう一度、東日本大震災を、福島第一原発事故を思い出せ、と。原発事故の再来は、日本の破滅でもあるのだから。
(文=編集部)