日々、集積場へ捨てられるごみのなかには、まだ使えそうなものもあり、つい「持って帰ろうかな」と考えてしまう方も少なくないのではないだろうか。しかし、集積場のごみを勝手に持ち去ることが、実はNGだという指摘が今、SNS上で注目を集めている。話題となったのは、『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ系)で準優勝した実力派お笑いタレントながら、ごみ収集員としても活動しているマシンガンズの滝沢秀一氏のツイートである。
<ゴミ清掃員になってみんなに一番知って貰いたいのはコレ。ちなみに清掃員がコレらを持って帰るとクビになります>
ツイート内で滝沢氏は、ギニア出身の収集員とともに粗大ごみ収集の仕事に勤しんでいた日を回想。そして作業の途中、彼らはまるで新品の自転車やフライパンセットが捨てられていたことを発見し、思わず持ち帰りたくなったそうだ。だが、滝沢氏によれば収集員がごみを勝手に持ち去ってしまった場合、即解雇になってしまうという。
このツイートを受けて、ネット上では「本当にもったいない」「捨てているんだからもらってもいいじゃない」などの声が寄せられることに。では、なぜその行為が認められないのか。今回はそんなごみ廃棄のルールについて、清掃行政を研究する立教大学コミュニティ福祉学部准教授の藤井誠一郎氏に話を聞いた。
ごみを持ち去ると窃盗罪、過失物横領罪に該当する可能性
ごみを持ち去る行為は、違法行為に該当する可能性があると藤井氏は指摘する。
「ごみの集積場は排出者と自治体の受け渡し場所になってまして、ごみを捨てた時点で行政が収集、処分するようになっています。そのため、行政以外の第三者が勝手に持ち去ることを前提にはしていません。無断で持ち帰った時点で『窃盗罪』『過失物横領罪』の罪に問われる可能性もあります。
またごみのなかには、プライバシーや個人情報に関わるものも存在するため、そうした観点からも、ごみの持ち去りは罪に問われる可能性があります。もちろん集積場以外の個人の所有地に排出して、『持ち去ってもよい』という旨の注意書きをすれば問題はないと考えられますが、一般的な集積場は行政以外の人間が好き勝手できる場所ではありません」(藤井氏)
ごみの持ち去りが問題となり、条例で禁止行為として定めた自治体もある。たとえば、東京都八王子市では2019年より廃棄物の持ち去り行為を禁止し、禁止命令違反者に対して、氏名の公表や20万円以下の罰金が課せられる。そのほかの東京都の自治体でも、三鷹市、大田区、杉並区などの地域で同様に持ち去り行為が禁止されている。
23区と多摩地区だとごみ出しのルールも異なる
ごみの持ち去りも問題だが、そもそものごみ出しのルールに関しても、地域によってかなり異なっている。なかでも、東京都は23区内と多摩地区でごみ出しのルール差が顕著だ。代表的な例でいえば、23区内は透明・半透明のごみ袋であれば問題ないのに対し、多摩地区は一部を除いて市指定の有料ごみ袋を購入して捨てることが義務付けられている。
なぜ同じ都内でもごみ出しのルールがここまで異なってしまうのか。
「そもそも、ごみ出しのルール(分別基準)が相違するのは、自治体がどこまで予算をかけてごみを減らそうとするかが異なるためです。分別することによって、ごみから資源が分けられることにより、ごみの量自体は減るものの、収集や中間処理、リサイクルの費用がかかってしまいます。費用をかけてでも資源化してごみを減らしたいという意思が働くため分別が行われるんです。
よって多摩地区がごみ袋を有料化しているのは、ごみを減らしたいからに尽きます。ちなみに多摩地区の自治体の最終処分場は、東京たま広域資源循環組合の二ツ塚処分場になりますが、処分可能容量には限度があります。そこで、焼却灰を埋めるのではなく、エコセメントの原料にするなどして最終処分地の延命化に向けた対策を施しています。
一方、23区がごみ袋を有料化できないのは、一斉に23区で有料化しないと、隣接する無料の区にごみが投棄される可能性があるからです」(同)
ごみをしっかりと分別しないと思わぬトラブルに発展するケースもあるという。
「スプレー缶やカセットボンベをごみ収集車に入れて潰してしまうと、爆発して火災事故が発生する恐れもあります。スプレー缶を潰してしまうと可燃性のガスが発生し、圧縮時に生じる火花によって引火してしまう可能性があるのです。
ただ、そういった事故が一時期は行政と委託業者にとって大きな悩みのタネでしたが、最近では清掃車に積み込み時のチェック体制の見直しや工夫が施され、徐々に清掃車火災も減りつつあります。たとえば、23区内の不燃ごみ収集では、パッカー車のようにごみをプレスしない特別な車種が導入され始めまして、劇的に火災事故は減少しました。しかし、地方ではこのような車種を導入する予算がなく、依然として事故が発生しているので、安全とは言い切れないのが現状です」(同)
リモートワークで出たごみは事業系ごみになる?
ごみ集積場の状況によって、その地域の治安がある程度わかるという。
「私も収集員のお仕事を体験させて頂いていますが、治安の悪い地域のごみ収集は非常に厄介です。分別できていないのに加えて、ごみ袋がきちんと結ばれていない、雑に並べられているなんてこともよくあります。地域内のコミュニティが形成され、住民同士のコミュニケーションがとれているエリアですと、相互監視の目があるので、ごみのマナーも徹底される傾向にあります。ですが、そうではない場所、とりわけ都市部は監視の目もなく、だらしなくなりがちです。ちなみに都内では、ごみのマナーがあまりにもひどい世帯に対し、行政から清掃職員が指導に向かうケースもあります。特に地方から上京してきた学生、新社会人の方は都内のごみのルールに適応できないケースが多いので、指導されることも多いようです」(同)
だが、知らぬ間にごみのルールに違反するケースも増えているという。それはリモートワークが原因とのこと。
「コロナ禍でリモートワークに移行した方も多いかと思いますが、自宅で仕事をしていて出たごみは、実は廃棄物処理法上は、家庭ごみではなく事業系ごみという扱いになります。家庭ごみは自治体が自ら収集する責任がありますが、事業系ごみに関しては責任を負っていません。ですから厳密に言えば、許可業者と契約して事業系ごみとして引き取ってもらうか、会社に出勤した際に会社のごみ箱に捨てなければいけないんです。ですがリモートワークが当たり前になった今、どの家が自宅で仕事をしているのかわからないので、ブラックボックス化しています」(同)
では、収集員の立場からごみ出しで配慮してほしいことは何か。
「ごみ袋はとにかくきつめに縛って、ほどけないようにしておいてください。収集員の方々は、一度にいくつもごみ袋を手にして、清掃車に詰め込みます。したがって、1袋でも緩んでしまっていると、中身が散乱してしまい、拾い上げるのに時間がかかり余計なタイムロスになってしまいます。
また収集員の方々と対面したときは、簡単な挨拶だけでもいいですから一言かけると、彼らのモチベーション維持、向上につながります。些細なことかもしれませんが、こうした気遣いがけっきょく地域のごみを取り巻く環境の改善につながっていくと思います」(同)
(取材・文=文月/A4studio、藤井誠一郎/立教大学コミュニティ福祉学部准教授)