スマートフォンの普及やモバイルPC利用シーンの増加により、持ち運び可能な充電用のモバイルバッテリーを利用する人が増えるなか、モバイルバッテリーをはじめとするリチウムイオンバッテリー使用製品の不適切な方法による廃棄が大きな原因で、ごみ収集車やごみ処理施設での火災が多発し、被害額が約111億円(2018年度~21年度の総計)に上っていると独立行政法人・製品評価技術基盤機構(NITE)が公表した。背景には、廃棄方法の分かりにくさや、回収窓口の少なさがあり、政府・関係業界に廃棄ルートの確立を求める声が強まっている。メーカー、小売店、自治体に見解を聞いた。
現在、メーカー各社から数多くのモバイルバッテリーが販売されている。ECサイト「amazon.co.jp」を見てみると、大手生活用品メーカー・アイリスオーヤマの製品(容量10000mAh)は3280円(税込み、以下同)、中国メーカー・Ankerの「Anker PowerCore 」(容量10000mAh)は2990円となっており、2000~3000円台で大容量かつ小型・軽量タイプの製品が簡単に手に入るようになった。
そんなモバイルバッテリーの普及に伴い問題になっているのが廃棄の難しさだ。一定のサイズ以下の電気製品を不燃ごみとして回収する自治体や、公共施設の専用回収ボックスで回収する自治体もあるが、モバイルバッテリーのように電池を取り出せない製品は対象外となっているケースもある。また、小型充電式電池について一般社団法人JBRCの回収協力店に持ち込むよう呼び掛ける自治体もあるが、回収協力店では非純正バッテリーやJBRC非会員メーカーの電池は回収の対象外となっている。一方、電池を取り出せない小型家電類を有害ごみ(危険品)として回収する自治体や、名古屋市のようにモバイルバッテリーを「電池類」として回収する自治体もあり、自治体によって対応にばらつきがあるのが実情だ。そのため、SNS上では廃棄の方法がわかりにくいとして以下のような声も多数あがっている。
<捨てたいけど捨てれないバッテリーが何個かある>
<現実的にどう捨てりゃいいの?と調べても無限ループ>
<よく分からないモバイルバッテリーは残置物の処分で大変>
<正しく捨てる方法が存在しない>
<JBRC会員以外のバッテリの回収方法なんとかしないと、そのうち、山にポイって捨てられる>
<有料でもいいから処分できるルートを確立して欲しい>
<政府がリチウムバッテリーの回収とリサイクルについて有効で実行可能な指針を出さないとダメ>
JBRC非会員のメーカー製の商品
前述のとおり、JBRC会員のメーカーのモバイルバッテリー(「携帯電話・スマートフォンへの充電を主機能とする小型充電式電池が組み込まれたポータブル電源装置」<JBRCのHPより>)であれば、JBRCの協力店・協力自治体で回収してもらうことは可能。だが、ECサイト上ではJBRC非会員の海外メーカー製のモバイルバッテリーも数多く販売されており、居住する自治体が回収の対象としていなければ「正しく廃棄する術がない」状態に追い込まれてしまうケースも生じる。
「アマゾンなどのECでモバイルバッテリーを購入する際に、その製造元がJBRCの会員かどうかを確認する人は少なく、またJBRCの協力店に持ち込むという廃棄方法も広く周知されているとはいいがたい。住んでいる自治体のごみ分別表の『●cm以下の小型家電は不燃ごみとして回収』という文言だけを見てモバイルバッテリーを不燃ごみで出してしまう人が多いのが実態で、結果として放電されきっていないリチウムイオン電池を内蔵するモバイルバッテリーが不燃ごみとして出されてしまい、それが火災の続出につながっている」(自治体職員)
自治体、小売店、メーカーの見解
各自治体はどのような回収方法をとっているのか。東京都で最も多い人口を抱える世田谷区に聞いた。
「世田谷区では、リチウムイオン電池等の充電式電池は、不燃ごみ等で排出しないようにご案内しております。充電式電池等の廃棄方法については、区HPに記載しておりますのでそちらをご確認ください。(下記URL参照)よろしくお願いいたします。
世田谷区HP「電池の処分方法」:
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/004/001/d00190127.html 」
また、東京都渋谷区の担当者はいう。
「渋谷区ではモバイルバッテリーの回収は行っておりません。大手の家電量販店などのリサイクルボックスに持ち込むようお願いしております」
そこで、モバイルバッテリーを販売する家電量販店にも聞いた。
「店舗に設置しているリサイクルボックスで回収しております。JBRC非会員のメーカーの製品は回収の対象外です」(ビックカメラ)
「当社は、一般社団法人JBRC(前:(社)日本電池工業会)の会員企業でありますので、全国のヤマダデンキ店頭で回収BOXを設置し、JBRCの回収方法に則りモバイルバッテリー等の2次電池の回収を行っております。また、破損等により回収できない電池は、各市町村ごとの廃棄方法にしたがい、適切に処理していただくようご案内しております。」(ヤマダデンキ)
では、メーカーは廃棄についてどのようなスタンスなのか。
「モバイルバッテリー製品について、弊社では下記のように廃棄・回収する際の注意事項を定めています。
リチウムイオン二次電池を使用しています。
通常のごみと一緒に捨てないでください。
・廃棄の際は自治体の廃棄方法に従ってください。
・リサイクル回収の際は、リサイクル協力店に設置された「小型充電式電池リサイクルBOX」にお出しください。
※回収はモバイルバッテリー本体のみとなります。
(付属品はすべて取り外してください)
ご不明な場合はアイリスコール(0120-211-299)にお問合せいただくようお願い致します」(アイリスオーヤマ)
前出・自治体職員はいう。
「モバイルバッテリーを販売しているJBRC非会員メーカーのなかには、郵送による回収窓口を設けているところもあるようだが、ネットで探しても問い合わせ窓口が見つからないメーカーもあり、そうなると廃棄したくてもできない『どうしようもない』状態となる。ここ数年需要が伸びているポータブル電源もそうだが、きちんとした回収ルートを確立していないJBRC非会員のメーカーは販売できなくするなど、国が厳しくルールを運用すべき時期にきている」
(文=Business Journal編集部)