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中学受験「塾」最新事情…難関校受験はSAPIX一強、対極的な日能研

文=日野秀規/フリーライター、協力=安田理/安田教育研究所代表、北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長
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「gettyimages」より

 東京都心を中心に、地元公立中離れ・中学受験の流れは過熱するばかり。近県や地方の大都市にも飛び火して、特に難関校への合格は親子ともにマラソンにも似た長期戦となっている。実際のところ、小4で進学塾の難関校コースに入れれば一安心、というわけではまったくない。合格を勝ち取るための塾選びから保護者のバックアップ体制、資金面などさまざまな側面について、2人の中学受験エキスパートに聞いた。

難関校受験ニーズを「寡占」するSAPIXと、中学受験を通じて生徒の成長を促す日能研

 子息に中学受験をさせる保護者が、まず考えるのは塾選びだろう。なかでも知名度・実績の両面で「大手4塾」は突出している。受験情報誌や教育書の企画編集を手がけ、中学受験事情に詳しい安田教育研究所代表・安田理氏は、難関校受験においてはSAPIXが「一強」といえる存在だという。

「難関校を志望する生徒が集中しているのがSAPIXです。広告でも難関校合格実績を全面的に打ち出しており、高学歴・高収入の保護者は、まずは子息のSAPIX入塾を目指します」

 首都圏で最大規模の公開テストを運営する首都圏模試センター・教育研究所長の北一成氏は、この状況をSAPIXによる「寡占」に近いと言い換える。

「難関校の合格実績のSAPIXによる寡占によって、SAPIX入塾自体の難易度がインフレ化し、中学受験対策開始時期の低年齢化が進みました。通常、中学受験では小学3年の冬から進学塾に通いますが、学力によってはこの段階でSAPIXに入れない可能性があります。そこで、子息の受験に心血を注ぐ保護者は小学1年からSAPIXに通わせるのです」

 あたかもミシュラン三つ星店に年単位で予約を入れるかのようだが、SAPIXにとっても早い段階で優秀な生徒が集まるのは願ってもないことだ。子息の難関校入学を考えるなら、まずは第一選択となるだろう。

 続いて、幅広い層での知名度を誇る日能研について。全国展開しており、生徒数は全国ナンバーワンだ。

「一言でいえば『理想のある校風』です。難関校に特化せず、全方位の中学受験生に見合った学校に合格させるための学びを提供し、『学びそのものに価値がある』という考えで運営されています」

 2013年まで日能研に在籍していた北氏は、実感を込めてこう語る。電車の車内で中学入試問題の広告に興味をそそられ、解いてみた経験がないだろうか。「シカクいアタマをマルくする。」というキャッチフレーズが添えられたその広告は、日能研が長年にわたって中学受験の拡大を世に訴えてきたツールなのだ。安田氏はいう。

「日能研の広告には、『こどもの知的好奇心を高めて能力を伸ばす』という考えが表れており、難関校への合格実績を誇るSAPIXとは路線が異なっています。中学受験を通して生徒に学ぶ楽しさを経験させ、中学受験のすそ野を広げようという理想主義です」

 あくまで難関校を目指すのか、子どもの学力に合った学校を探すのか。保護者の考えが問われる場面といえそうだ。

四谷大塚は合格実績に注意、早稲田アカデミーは生徒を体育会よろしく鍛え上げる

 中学受験の共通模擬テストと学習教材「予習シリーズ」で知られる四谷大塚は、現在は一都三県で直営校35校を運営している。安田氏によると「四谷大塚は難関校から中堅校まで幅広く合格者を出しています。『予習シリーズ』の内容はかなり高度で、SAPIXとの競合を意識した内容です」とのこと。ただし四谷大塚が一般に公表している合格実績は、教材や教育サービスを継続的に使用している提携校の実績を含んでいる。四谷大塚単独の数字ととらえないこと、と安田氏は指摘する。

 早稲田アカデミーはその名の通り、もともと早稲田大学系列などの大学付属中学に強い。北氏はこう語る。

「早稲田大学高等学院中学部、早稲田実業学校中等部、早稲田中学校などに子息を入れたい家庭ならここでしょう。大学付属校以外の難関校への合格実績も、SAPIXに次ぐ。他にも海外からの帰国生を積極的に受け入れたり、やや体育会系の元気な指導が売りであったりと、特色ある進学塾です」

 かつては頭に鉢巻きを巻いて正月特訓をするような、ステレオタイプの「受験戦争」を思い浮かべていただくとわかりやすい。難関校への合格実績でSAPIXを追い上げており、図太いタイプの子息なら尻を叩いて成績を伸ばしてくれるだろう。

SAPIXか少数精鋭塾か、ポイントは本人の資質を見極めること

 実際に保護者が最も気になるのは、難関校合格への最適ルートだろう。安田氏によれば、SAPIXと少数精鋭型の塾の2ルートに分かれるという。

「SAPIXは当然として、それ以外の大手3塾からも多数の合格者は出ます。その他、有力なのが難関校特化型の小規模な進学塾です。具体的には、SAPIXから分かれた塾で国語に定評があるグノーブル、算数に強みがあるエルカミノ、面倒見の良さで知られる希(のぞみ)学園です。この3塾はSAPIXに勝るとも劣らない難関校合格率を誇ります」

 SAPIXの小学6年生の在籍者は6000人を大きく超えており、大きい校舎だと10クラスに分かれる。必然的にクラスの上下移動はつきものとなるため、生徒によってはクラスが下がることで自信を失い、通えなくなってしまうことも珍しくない。能力はあってもタフさに欠ける生徒は、受験以前に塾内競争に傷つき、脱落することがあるのだ。この点、少人数の塾の場合はクラスが落ちることがないのは大きなメリットとなる。クラス内で能力差を感じる場面までなくすことはできないが、それでもクラス移動に比べれば精神的ダメージははるかに小さい。落ちこぼれるリスクもそれに応じて、比較的小さいといえるだろう。

 北氏に、難関校合格に挑戦する際に注意すべきポイントを聞いた。

「まず、低学年から通塾するか、小3の冬に入塾するかの選択があります。低学年から通うならSAPIXを選ぶ保護者が多い。続いては本人の資質で、精神面・体力面ともに頑張りが利くかどうか。SAPIXはハードな自宅学習が前提となっており、部活などのスポーツはあきらめざるを得ません。勉強を楽しんでやれる子であれば問題ありませんが、ついていけない子はどうしても出てきます。保護者にも熱意と献身的なサポート体制が求められます」

 現実には、SAPIXから中堅校に進学する生徒もいるし、それ以外の塾から難関校に合格する生徒もいる。本人に合っている塾を選ぶことが大事だし、スクールライフと両立する中学受験も大いにありだと北氏は強調する。

公立中高一貫校の「適性検査」は知識偏重でなく自分の頭で考え、記述する力を重視する

 中学受験では、私立難関校に並んで公立中高一貫校が人気を集めている。試験形式の違いには要注意と安田氏は語る。

「公立中高一貫校の選考では、建前として『試験』でなく『適性検査』を行います。その内容も教科別でなく融合問題で、私立中学の試験とは形式が違うので受験対策もおのずと変わります。とはいえ、合格に必要な資質自体は大きくは変わりません。私立難関校に合格するためには思考力と記述力が求められますが、自分で考えて解答を書ける生徒は適性検査でも合格できますから。実際、高レベルの公立中高一貫校では入学者の8割が私立も受験しています」

 北氏によると、公立中高一貫校受験対策には「2強」が存在するという。

「生徒数最大を誇るのがenaです。適性検査では、正解が一つとは限らない問題に対して、問題文や図表から的確に情報を読み取り、身につけた知識と組み合わせて解答を記述することが求められます。enaは適性検査に特化し、その授業も集団で意見を出し合い、話し合うような形式をとるなど非常に特徴的です。これに比肩する存在が、私立受験にも実績のある栄光ゼミナールです。公立中高一貫校受検対策コースを設けており、首都圏のほか宮城、京都もカバーしています」

大切なのは最後まで走り切ること。走り切れる場所を選ぶのは、本人に任せたい

 最後に、進学塾を選ぶ際のポイントや考え方について、両氏に聞いた点をまとめておこう。最大のポイントは、必ず、できれば何回も体験会に参加してみること。小学生は大人ほどの体力や精神力がないため、学びのスタイルやリズム、ボリュームなどが合うかどうかが、中学受験を最後まで走り切れるかどうかの大きな分かれ目となる。そこで、子息にいろんな塾を体験させて、合う合わないを本人に判断させることが得策だろう。塾によって雰囲気はかなり違うので、最後はこどもの直感に任せたい。保護者としてはどうしても合格実績が気になるが、合わない塾に入れて子息が脱落してしまっては元も子もないからだ。

 当然、学費も重要だ。仮に小4の1年間でかかる100万円は問題ないとしても、受験直前となる小6になって、1年に150万円以上かかることまで見通せているだろうか。卒塾までにいくらかかるかをしっかり確認したうえで、塾を決める必要がある。

 保護者が最後まで伴走しきれるかどうかも重要なポイントである。予習・復習の監督のほか、小4で週2回の通塾が、小6になり週4回になれば送迎の負担も大きくなる。保護者がするべきことは一通りクリアにしておきたい。場合によっては、教室型の塾よりサポート体制万全な個別指導塾のほうが伸びる子もいることは覚えておこう。

 客観的に子息の能力や適性を判断するクールな視点も忘れてはならない。中学受験をする家庭では、低学年のうちから公文式や学研などの教室に通う場合が多く、その段階でほかの子と比べて我が子の学力の優劣はわかるもの。さらに家で本を読む習慣もなく、計算力が特に優れてもいない場合、無理をして大手塾に固執することが得策でない可能性は高い。

 最後に、両氏に中学受験に臨む保護者へのメッセージを聞いた。

「大事なのは、家族で話し合って学びについての価値観を統一すること。これが受験校選びにも、塾選びにも共通するベースとなります。そのうえで、ぜひともご子息の意見を尊重していただきたい。塾や受験校を自分で決めたという経験が、受験前の勉強の粘りや挫折からの立ち直りにつながります。中学受験を合格するための詰め込み期間だけでなく、自立するための良い経験としたいものです」(安田氏)

「未来は常に、保護者が体験していない世の中です。難関校に合格することはもちろん素晴らしいことですが、中堅の私立中高一貫校や公立中高一貫校でも、学び方を工夫し、海外大学に進学する例も出てきています。大学ではAO入試や推薦入試を増やす方向で、一般入試の枠は減っていくでしょう。難関校の価値が下がる可能性とともに、英語学習や習い事などの価値が上がる可能性もあります。難関校合格=幸せという図式を、1回疑ってみる必要があるかもしれません」(北氏)

(文=日野秀規/フリーライター、協力=安田理/安田教育研究所代表、北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長)

●安田理/安田教育研究所代表
東京都出身。大手出版社にて雑誌の編集長を務めた後、教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年に安田教育研究所を設立。教職員研修・講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。各種新聞・雑誌、ウエブサイトにコラムを連載中。
安田教育研究所

北一成/首都圏模試センター・取締役教育研究所長

大手学習塾を経て2013年首都圏模試センター入社。通算38年間中学受験に関わる。学校情報・入試予想と分析を専門とし、約400校の中高一貫校を取材。
首都圏模試センターのHPより

Twitter:@syutomosi_sc

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