このようなクローン技術の研究は、医学(特に再生医療)や畜産技術の進歩のためには必要なものであるので、「クローン人間をつくる“直前状態”まではOKとしよう」という意図が見えます。しかし、前回お話しした「人工子宮装置」が開発されたら、文言上、クローン人間をつくってもいいことになります(その時は法律が改正されるでしょうが)。
また、この法律だと「人間の体細胞クローンは違法」だけど、「人間の受精卵クローンは合法」とも読めます(第2条第10項の「人クローン胚」の定義より)。
●クローンの安全面の問題
では、同じ子どもが128人欲しい人は、その気になれば、128人の代理母をお願いして、受精卵クローンの「128つ子」をつくれるのかと思って調べてみたのですが、こちらは「法律」ではなくて、「指針」で、このような母胎への移植が禁止されている、とのことです。
しかし、「法律」や「指針」が禁じようとも、技術的に可能であれば、そのようなクローン人間をつくってしまう科学者は、きっといるでしょう。
そのような者に対して、どれほど厳しい罰則(十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金又は併科)を規定したところで、現実に生まれてきてしまったクローンをなかったことにはできません。そのようにして誕生してしまったクローン人間を、私たちの世界(行政、法律、世論)は、どのように扱うことになるのでしょうか? 今のところ、私にはイメージすらもできません。
「20~40年の年齢差のある、自分の双子の妹」――つまり自分のクローンを出産するためには、「体細胞クローン」によらなければならないのですが、技術面や安全面に問題があると考えられています。
先ほど紹介したクローン羊「ドリー」は、6歳で死亡しました(羊の平均寿命は15歳)。大人の細胞を使ったクローンは、恐ろしくその成功頻度が低く、成功しても臓器の奇形や糖尿病などの疾患を伴うことが多いのです。
この理由の一つとして、最も有力な説が「テロメア説」です。細胞は分裂を繰り返して、生体を維持しているのですが、分裂がある一定回数(80回くらい)を超えると、遺伝子コピーに異常が発生する恐れありとして、細胞が自殺を試みます(アポトーシス)。これが老化の主たる原因といわれています。
一定回数を超えると、それ以上のコピーが禁止される点では、地デジ放送のコンテンツのコピー制限「ダビング10」のようです。「体細胞クローン」は、すでに、コピーを何回か繰り返してしまっている体細胞を使うので、生まれてきた時に、すでに老化していると考えられるのです。
●STAP細胞がクローン技術を劇的に進化させる?
しかし、このパラダイムをひっくりかえす技術が、近年、日本人の研究者によって開発されています。いわゆる多能性細胞と呼ばれるiPS細胞やSTAP細胞の製造技術です。
詳細は次回説明しますが、これらの技術は、原理的にはどんな年齢の、どんな細胞からでも、すべての細胞が変化する前の最初の一歩の細胞(受精卵)の、次の一歩の細胞をつくり出すのです。テロメアの細胞分裂カウントが80を超える老細胞からであっても、細胞分裂カウントが限りなく0に近い生まれたての細胞まで戻してしまうことができる驚異の「老化細胞の時間逆転」技術――まさに、「時をかける細胞製造」技術です。
生まれたての細胞を使えば、「生まれてきた時に、すでに老化している」という問題は発生しないはずです。つまり、「20~40年の年齢差のある、自分の双子の妹」の出産の危険性は、格段に下がることになるのです。
次回も、「結婚」の話題から離れて、ES、iPS、STAP細胞についてのお話と、そして「同性同士での子どもはつくれるのか」という技術的な検討をしてみたいと思います。
(文=江端智一)
なお、図、表、グラフを含んだ完全版は、こちら(http://biz-journal.jp/2014/02/post_4157.html)から、ご覧いただけます。
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