●エンロン倒産の最大の原因「スター制度」
もちろん、コンサルが経営破綻を招いたのは、著者が関わったケースだけではない。同書はこう指摘する。
「コンサルタントのせいで会社がつぶれた例はいくつもある。なかでも有名なケースを紹介しよう。エンロン事件だ」(同書)
エンロンといえば、米国のエネルギー業界の規制緩和の波に乗って急成長した多角的企業。ベンチャービジネスも手掛けたが、01年10月、簿外債務の隠蔽や粉飾決算が明るみに出て、株価は暴落(01年末に倒産)。米国全体のコーポレートガバナンスが問われる事態になった。
「エンロンの粉飾決算はアーサーアンダーセンが幇助していたことは広く報道されたが、エンロンと深く関わっていたもうひとつのコンサルティングファーム・マッキンゼーは、あれだけの騒動をほとんど無傷で逃げ切った」(同書)
当時のエンロンのジェフリー・スキリングCEOはマッキンゼーの出身で、マッキンゼーが“ベストプラクティス”として提唱していた「スター制度」を採用していた。
「スター制度」とは、社員をA、B、Cの3つのクラスに分類し、扱いに差をつける制度だ。Aクラスの人材(上位10~20%)には多額の報酬を与え、できる限り裁量権を持たせることで、チャンスをものにして出世できるようにする。
Cクラスの人材(下位10~20%)に対しては、成績を上げるための指導を行うか解雇する。つまり、AクラスとCクラスの人材にほとんどの注意が向けられるものだ。
「しかし、Cクラスの社員がBクラスやAクラスになったり、Bクラスの社員がCクラスあるいはAクラスになったりする可能性があるのなら、Aクラスの社員だってCクラスやBクラスに下がってしまう可能性があるのではないだろうか? 特に監視の眼もなければなおさらだ。このように社員が将来的にどの程度の能力を発揮するかは未知数なのに、どうやって社員を最初から固定的なランクに分類できるというのだろうか」(同書)
この制度の下では、社員の間に熾烈な競争や、何をやっても構わないような風潮が生まれ、過度のリスクテイキングやごまかしが横行し始める。
「優秀な“スター”社員は、自分には才能があるのだから絶対にしくじるはずがない、と高をくくっていた。才能あるAクラスの社員には大きな裁量権が与えられ、監視も受けずに新しいベンチャービジネスを立ち上げることすらできた。失敗はマイナスと見なされず、むしろ挑戦する勇気があるしるしであり、Aクラスの人材たる証と見なされた」(同書)
結局は、Aクラスの人材が、エンロンの電力取引事業を立ち上げたものの、巨額の損失を出し、続いて手を出した電力のアウトソーシング事業でさらに損失を広げることになったのだ。この「スター制度」こそ「エンロンを転落させた最大の原因」ではないかという。
「このようなモデルや理論はいずれも職場から人間性を奪うものであり、そういう意味では図らずも効果を発揮したといえるだろう。従業員は使い捨ての機械よろしく最大限まで酷使され、一人ひとりの個性も才能も埋もれたまま終わってしまうのだ」(同書)
企業、組織がぐちゃぐちゃになり、従業員は酷使されるのみ。一方で、法外なコンサルティング料で潤った経営コンサルタントたちは、今日も「エクセルのスプレッドシートや、見かけ倒しの方法論や、人を煙に巻く専門用語や鼻持ちならない傲慢さで武装」し、「数々の経営神話をでっちあげ、世間に広め」続けている。
『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』 デロイト・ハスキンズ&セルズ、ジェミニ・コンサルティングと、大手コンサルティングファームを渡り歩いてきた実力派コンサルタントが、自らとコンサル業界が犯してきた恐るべき過ちの数々を大暴露。