だが、そのビジネス界のエリートである経営コンサルタントが自らの仕事を「組織をつぶす諸悪の元凶だ」と告発する本が出版されて、大きな話題になっている。
『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする』(カレン・フェラン著/大和書房)がそれだ。著者は、大手会計事務所系コンサルティングファームのデロイト・ハスキンズ&セルズや戦略系コンサルティングファームのジェミニ・コンサルティングで活躍。その後、売上高世界一の米製薬会社・ファイザーをはじめとする大手企業でマネジャーとしての経験を積んだ。そんな敏腕コンサルタントがコンサルティング業界の内幕と過ちを暴露したのだ。
同書は冒頭から、こんな記述で始まる。
「私はじわじわと確実に、私たちが適用してきた経営理論の多くが間違っていることに気づいていった」
「理論の正しさを示す証拠があっても、ほとんどは個々の事例に当てはまるにすぎないし、既存の研究の多くには企業の利益が絡んでいる(何百万ドルも投じた再建策にほとんどメリットがなかった、などと認めたがる企業がいったい何社あることか)」
つまり、最先端の経営理論の多くは、個々のケースで成功しただけの事例にすぎず、他の企業でも成功するとは限らない。しかし、コンサルタントはその事例を素晴らしい理論として持ち上げ、法外なコンサルティング料で売り込み続けているのだという。
●役に立たない理論で経営陣を振り回す
そして、著者はこんなショッキングな台詞を吐露するのだ。
「私がこの本を書いたのは、経営コンサルタントとして30年も働いてきて、いい加減、芝居を続けるのにうんざりしてしまったからだ」
「まったくどれだけ芝居を打ってきたことか。『この在庫管理システムを導入すれば、問題は解決します』とクライアント企業に断言しながら、肝心なのはサプライチェーンの部門間の信頼関係を構築することだったり、『商品開発プロセスリエンジニアリング』と銘打ったプロジェクトを立ち上げていても、実際にやっているのは、営業、マーケティング、研究開発(R&D)の各部門の連携強化だったり、コンピューター並みの明晰な思考力で問題を解決したように見せながら、本当はクライアントの関係者の思惑を読み取るのがうまいだけだったり。何よりいたたまれないのは、クライアント企業の従業員を『資産』として扱い、監視、評価、標準化、最適化すべきであると唱えてきたことだ」
その結果、経営陣は役に立たない経営理論に振り回される。時には大企業でさえ、経営理論によってボロボロにされる。著者がマネジャーを務めたファイザーでは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が重要な競争優位をもたらすと主張している「差別化戦略」(大型新薬開発に特化)を経営陣が実践したにもかかわらず、新薬開発に失敗し続け、株価は42ドルから17ドルにまで下落してしまったほどだ(2008年の株式市場の暴落以前)。
『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』 デロイト・ハスキンズ&セルズ、ジェミニ・コンサルティングと、大手コンサルティングファームを渡り歩いてきた実力派コンサルタントが、自らとコンサル業界が犯してきた恐るべき過ちの数々を大暴露。