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●社会的共通資本
宇沢はもちろん、新古典派経済学を批判だけしていたのではない。社会的共通資本という新しい考えを提起した。それは市民的権利をいかに支えていくかを彼なりに考えた成果だろう。大気、河川、土壌などの自然資本、道路、橋、港湾などの社会資本、医療、教育、金融システムなどの制度資本を、政府が安定的に提供することで、市民が最低限度の生活を送りやすくするという構想だ。そしてこのような社会的共通資本は、官僚のコントロールではなく、専門家集団を中心とする市民的な取り組みで指導していくという。
この専門家集団への委託も、宇沢にあってはただの絵空事ではなかったろう。例えば60~70年代に社会問題となった成田国際空港建設をめぐる一連の動きには、この宇沢の考えがかなり反映されていたのではないだろうか。これは宇沢の今後さらに再評価されるべき論点になるだろう。
宇沢の反経済学的な発言とその実践的な成果は、これからも何度も再考していく必要がある。それは筆者には反面教師なのだが、他方で最も知的刺激の多い反面教師でもある。改めてご冥福をお祈りする。
(文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)
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