この数字には経産省幹部も驚いたようで、消費税増税の影響は軽微としてきた民間エコノミストの一部には、これまでの楽観論を変えようとする動きもある。
実は、この伏線は以前からあった。6月27日に総務省が公表した5月の家計調査では、1世帯当たりの消費支出(2人以上世帯)は物価変動を除いた実質で前月比3.1%減った。また、6月30日に国交省が公表した5月の住宅着工戸数は前月比3.7%の減少だった。このほかにも、7月10日に内閣府が公表した5月の国内民需(船舶・電力を除くベース)は対前月比19.5%減となった。
これらは、消費、設備投資、住宅投資を占う経済指標だが、すべて前回消費税増税の97年当時より悪い数字だ。消費、設備投資、住宅投資でGDPの7割を占めるため、これらの数字は景気がいまいちということを示している。
にもかかわらず政府は「景気は持ち直している」という見解を示し、7月17日に公表された月例経済報告や25日に公表された経済財政白書も、同様のトーンの内容となっている。しかし、上記統計を素直に見れば、政府の見解は現実を正確に表していないといえよう。
●新聞、政府見解に追随せざるを得ない理由
昨年秋、政府は「消費税増税による景気減速懸念は少ない」としていたため、それを覆すことはいえない。また、全国紙各紙も消費税増税に賛成していたため、明確に景気が悪化していると報じられない。
新聞業界の場合、もっと深刻な理由がある。新聞料金への軽減税率を要求しているのだ。この要求は以前から行われていたものだが、民主党政権下で消費税増税が決まった際、かなり露骨な動きがあった。
2010年11月、元財務事務次官の丹呉泰健氏が読売新聞の監査役に就任することが明るみになり、それと同時に、新聞への軽減税率適用を求める動きが活発化した。軽減税率は、租税特別措置と同じで利権の固まりになる。こうした利権の裏には、必ずといってよいほど天下りがある。元財務事務次官の大手新聞社への天下りは、その兆候といわれたのだ。
財務省はすんなりと軽減税率を認めない。その検討は、来年に予定されている10%への再増税とともに行うとしているため、新聞業界は再増税に賛成せざるを得ない。10%への消費税再増税では、新聞業界は5%の軽減税率を要望している。つまり8%から10%へ増税される一方、新聞料金は8%から5%へ減税することを求めているわけで、こうした新聞業界の動きに対して多方面から批判が上がっている。
そんな中、6月10日に元財務事務次官の勝栄二郎氏が読売新聞社の監査役、27日に同じく元財務事務次官の真砂靖氏が日本テレビホールディングス(HD)と日本テレビ放送網の社外取締役に就任。天下りは続いている。消費税再増税とともに、新聞料金への軽減税率適用が現実味を帯びつつある。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)