著者の真山氏に
・ハードボイルド小説に挑戦した狙い
・大震災を舞台に選んだ理由
・報道のあるべき姿
などについて話を聞いた。
–本作はミステリータッチの濃厚な人間ドラマです。作品づくりとして何を目指していたのでしょうか?
真山仁氏(以下、真山) デビューして10年たち、これまでとは違ったものを書いてみたいと思ったのがきっかけです。一人称でハードボイルドタッチな作品を書きたいという気持ちが湧き、今回の執筆に至りました。
これまでは社会的なテーマで世の中の仕組みや業界などをワイドに捉えて、さまざまな価値観を持った人物を登場させ、どちらかといえばスケールの大きな物語にすることが多かったのですが、一人称で書く以上、主人公の内面を掘り下げなければなりません。
ハードボイルドは、主人公が私立探偵の場合が多いですが、日本では成立しにくいのが現状です。何を主人公の仕事に据えるべきか考えたときに、記者が思い浮かびました。中でも、新聞社内で記者クラブから離れた遊軍の記者は、意外と私立探偵のように機動的な動きができます。
日本ではマスコミが事の善悪を決めてしまうようなところがあり、常に「被害者がかわいそうな善い人で、加害者は悪い人」として報じられています。一方で、ジャーナリズムの世界では、そうした単純な決めつけに疑問や危機感を抱く人も多く、マスコミのあり方は常に問われています。
新聞記者を主人公にして一人称で内面を掘り下げるのであれば、そうしたマスコミの問題点もひとつのテーマとして扱えると考えました。
–なぜ、東日本大震災の被災地を舞台にしたのでしょうか?
真山 当初から決めていたわけではなく、結果として被災地になったのです。「人はなぜ過ちを犯すのか」が本作の主題ですが、現実には「人は結果として罪を犯す」「結果として踏み止まる」「意図していなくても、過失が大きな事件になってしまうこともある」等の状況が考えられます。