では、埼玉・千葉・神奈川の医師数を全国平均にするには、どの程度の医師が必要なのだろう。それは、埼玉県5600人、千葉県3300人、神奈川県2900人だ。
医学部の定員は全国で約9000人だ。毎年卒業生の5%を強制的にこの地域で勤務させるとして、12年時点の全国平均に追いつくのに26年かかる。焼け石に水だ。また、首都圏に医師を集めるというのは、政治的な調整に手間取るだろうから、現実的でない。
日本は医師の絶対数が不足している。資源の絶対量が少ない状況で、超法規的なやり方で若者を苦境に追いやるのは、戦時中の神風特攻隊と同じ思想である。官僚の自己満足に過ぎず、意味がない。
対策
では、どうすればいいのだろう。いくつかの手段を合わせなければならない。
ひとつは、首都圏での医師養成数を増やすことだ。成田市に医学部が新設されるが、埼玉県や神奈川県での設置も検討すべきだ。幸い、戸田市や箱根町・鎌倉市のような財政力のある自治体がある。
医師不足に対する根本的な対応は、医師養成だ。ただ、これには時間がかかる。筆者は、時間がかかるのだから、すぐにやるべきだと思うが、当座の対症療法も必要だろう。
まず検討すべきなのは、国家公務員、あるいはそれに準ずる医師を緊急的に医師不足地域に派遣することだ。幸い厚労省には医師免許を持つ官僚がいる。彼らは、平素より医師であることを強調している。この際、働いてもらってはどうだろう。外科手術のような高度医療はできなくても、初期研修を終えているのだから、基本的な医療はできるはずだ。彼らは国家公務員なので、業務命令を出せばいい。これは法律や政省令を改正し、通知を出す必要はない。
国立病院機構やナショナルセンターに所属する医師も同じだ。このような施設には、平時より膨大な税金が運営費交付金として注ぎ込まれている。彼らがウェイトを置いている医学研究ももちろん重要だが、それ以上に医師不足による医療崩壊対策が喫緊の課題だろう。こちらも業務命令で対応できる。
国立大学の医学部の移転
ほかにも検討すべきことがある。それは東京都内にある国立大学の医学部の移転だ。東京大、あるいは東京医科歯科大の移転を考えてはどうだろうか。この2つの大学には、大学院生まで含めれば1000人程度の医師がいるだろう。首都圏の医師不足を解決するための、即効性のある対策だ。