震災後、一時的に避難した若年女性が帰還し始めた。出産する人もいる。また、この地方出身の女性で、里帰り出産を希望する人もいる。ところが現状では、このようなニーズに応えることができない。知人の相馬市出身で、東京で働く女性は「現在、妊娠していますが、里帰り出産できる病院がなかったため、こちらで産むことなりそうです」という。
この問題に対して、すぐにやれる事がある。それは、福島県立医大が産婦人科医を派遣することだ。震災復興のため、巨額の税金が福島県立医大に投入されてきた。相馬地方への医師派遣は、福島県立医大にとって最優先事項のはずだ。
ところが、福島県立医大は、この問題に真剣に取り組んでこなかった。筆者には、むしろ被災地の病院を苛めてきた感すらある。ご興味のある方は、以下の文章をお読みいただきたい。
・10月11日付「JB PRESS」記事『厚労省、立派な大義名分の裏でせっせと利権作り 新専門医制度でさらに焼け太る福島県立医大』
・10月24日付「医療ガバナンス学会」メールマガジン『福島県立医大は専門医の育成機関として適格か』
この問題の解決は、福島県民が自立し、民主的に議論することだ。納税者として、福島県立医大の振る舞いを批判すればいい。福島県庁には、福島県立医大の「暴走」を許した管理体制について説明してもらえばいい。福島県立医大の「怠慢」を放置し、全国の若手医師を医師不足地域に強制的に派遣すべきではない。
余談だが、筆者たちの批判が効いたのだろうか、先だって、福島県立医大は南相馬市立総合病院に産科医の派遣を決めた。福島県立医大という「権力」が機能するためには、社会の監視・批判が欠かせないことを示している。
医師偏在
医師偏在については、もうひとつ深刻な問題がある。それは日本国内での医師偏在だ。日本での医師数は西高東低である(図2)。
実は、日本で最も医師が少ないのは首都圏である。12年現在、人口10万人あたりの医師数は埼玉県148人、千葉県173人、神奈川県193人だ。京都府297人、徳島県296人の50%~65%程度だ。
東京に医師が多いため、「病気になれば、東京の病院に通うから大丈夫」という意見を聞くことがあるが、これは誤解だ。首都圏を平均すれば、西日本との差は比べるべくもない。首都圏は東京の中心部に医師が偏在しているため、むしろ危険であるというほうが妥当だ。
今後、首都圏は急速に高齢化する。医師不足は、ますます加速する。