最近でこそ社会に広く認知されている「新型うつ病」ですが、話題になり始めた頃は、健常な人には理解しにくいものでした。
新型うつ病とは、「職場や学校で、義務的に何かに取り組むことは憂鬱だが、帰宅後や休日は、自分の好きなことに没頭でき活動的になれる」という症状です。これだけ読むと、「甘えるな!」と一喝したくなる方もいるかもしれませんが、新型うつ病は病気として認知されるだけの裏付けがあります。
それは、MAOI(モノアミン酸化酵素阻害物質)が症状を緩和する症例が数多くあることから、新型うつ病はセロトニンやノルアドレナリン系に異常があるのは明らかと考えられます。とはいえ、新型うつ病の患者本人の苦痛はもちろんですが、患者の周囲の人も苦慮する状況が起きやすい病気といえるでしょう。
さらに近年、「ウインターブルー」と呼ばれるうつ病が増加の兆しを見せているのですが、その認知度は新型うつ病よりも低いと思われます。
ウインターブルーとは?
ウインターブルーは「冬季うつ病」とも呼ばれ、正式には「季節性感情障害」のひとつです。
季節性感情障害は、1984年に米精神科医ノーマン・ローゼンタールによって提唱されました。秋冬になるとうつ状態を示し、春または夏になるとその症状が自然と回復するという症状が2年以上続くと、ウインターブルーの可能性が疑われます。「季節性」のほかに原因とされる因子がないことが特徴です。
ヨーロッパなど冬季の日照時間が少ない国では、ウインターブルーの認知度が高いようです。冬季に日照時間が少なくなるために、太陽を浴びることでつくられる「セロトニン」が減少します。セロトニンは、脳内で精神安定ホルモンとして働きます。「ハッピーホルモン」とも呼ばれ、感情のコントロールや心のバランスを保つ役割があります。セロトニンが不足すると精神が不安定になり、その結果、ウインターブルーが起きるといわれているのは納得です。
治療法は「高照度光療法」で、抗うつ薬よりも有効ともいわれています。日光の代わりに機械を使用し、日光と同程度の強い光を浴びせます。
ウインターブルーの症状
季節性感情障害に共通する症状は、抑うつ症状、焦燥感、倦怠感です。そのほか、ウインターブルーの特徴的症状は、過眠、過食です。過眠傾向は、日中から夕方まで続き、夜には軽減するケースが多いようです。過食傾向が強い場合、1カ月で5%程度の体重増加が見られることもあります。また、発症割合は男性:女性=1:4と、女性に多いタイプのうつ病と考えられています。
フィンランドやスウェーデンなどの北欧で多くみられるウインターブルーですが、スウェーデンの首都・ストックホルムと東京の冬の日照時間を比べてみると(気象庁HP、スウェーデン大使館HP)、両者とも6時間前後でした。つまり、日照時間で考えれば、東京でもウインターブルーになる条件下にあるといえ、今後、日本でウインターブルーを訴える人が増えるかもしれません。
生活に支障を来さない努力を
社会はウインターブルーという疾患があることを理解すべきです。ただし、理解することと認めることは少し違うと思います。ウインターブルーだからといって、日中の眠さややる気のなさは肯定できません。新型うつ病にしてもウインターブルーにしても、社会は病気を理解し、患者の日常生活に滞りが出ないようにサポートすべきです。そして、患者も積極的に受診、治療に取り組むことが大切です。患者も社会も、生活に支障を来さないようにする努力が必要なのです。
私たち誰しもが、いつウインターブルーになるかわかりません。予防法としては、規則正しい生活習慣と適度な運動、太陽の光を浴びることなどが有効です。また、誰でも落ち込む日はありますが、そういった感情の起伏が仕事に影響しないよう、毎日のルーティンなどは紙に書き出すなどして、一つひとつ丁寧に取り組むようにしましょう。
(文=吉澤恵理/薬剤師)