今回は、年々進歩し飛躍を遂げる医療に上手に付き合っていく方法のお話です。“極論君”は「ちょっとでも良さそうなことは、どんどんと取り入れる」という姿勢です。「ピロリ菌が胃にいるとわかれば当然除菌してもらうし、メガネが不要となる角膜屈折矯正手術、いわゆるレーシックなどはすぐに行う」という立ち位置です。
一方で“非常識君”は、「新しい治療や最新の手術は、その後の成績や不利益な結果が不明なので、相当様子をみてから、そして相当数の人が行って安全性が判明してから考える」という態度です。
“常識君”のコメントです。
「まずピロリ菌の除菌は健康保険が適用されますが、レーシックは適用されません。つまりレーシックは自費です。健康保険が適用されるということは厚生労働省がその効果とある程度の安全性を認めているということです。ですから、ピロリ菌が胃にいれば除菌は行ったほうが良いでしょうが、レーシック手術は自費ですので、メガネやコンタクトで問題ない人があえて自費診療を選ぶ必要もないと思います」
極論君の意見です。
「以前はピロリ菌の除菌も健康保険の適用ではありませんでした。平成12年に胃潰瘍と十二指腸潰瘍に対して除菌が保険適用になりました。そして平成19年に最初の除菌治療が失敗したときに行う二次除菌も保険適用になりました。平成22年には胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者さんにも保険適用になりました。そして平成25年に慢性胃炎にも対しても健康保険が認められました。
つまり、ピロリ菌に感染していても慢性胃炎であれば平成25年までは保険適用にならなかったのです。少々の自費負担額を惜しんで保険適用になるまで待っていては、最善の治療に乗り遅れることになるではないでしょうか? いまや慢性胃炎でピロリ菌に感染していれば、除菌を勧めることは医師としての責務です。将来の胃がんの発生を相当減らせる可能性があるからです。医療保険の適用は遅すぎることがあるのです。自分が慢性胃炎でピロリ菌が陽性であれば、除菌をしない消化器の専門医は、まずいないと思います」
安全性と有効性のバランス
非常識君のコメントです。
「確かに今から顧みれば、もっと早く慢性胃炎にピロリ菌の除菌治療を保険適用としてもよかったようにも思えます。しかし、安全性と有効性のバランスを考えて厚生労働省も対応しているのでしょうから、僕は安全性を最優先に保険として認められたら考えることにしています。つまり保険として認められていない治療は選択肢になりません。当然にレーシックも自費治療ですので行いません。メガネやコンタクトで不自由しないので、あえて行う必要もありません」
常識君の意見です。
「レーシック手術とは、目のレンズに相当する部分、つまり角膜にレーザーを当てて、角膜の曲率を変えることで視力を矯正する手術です。1990年代から始まり、多くの方がこの治療を受けて、そして裸眼視力を向上させています。スポーツ選手なども行っている手術です」
極論君の意見です。
「僕が近視であれば、レーシック手術は受けますよ。裸眼視力が向上して遠くを見るのにメガネが不要になるのは朗報です」
レーシック手術を受けない眼科医
そこで非常識君の意見です。
「近視がある眼科の先生全員がレーシック手術を受けているわけではありません。実は結構な割合の眼科の先生が、メガネを使用しているとも聞いています。そんなに良いものであれば、近視眼科医師は全員この手術を行っているのではないですか?」
そこで常識君のコメントです。
「ピロリ菌の除菌とレーシック手術の相違点は保険適用の有無という観点以外にももうひとつあります。もとの状態に戻れるか戻れないかということです。将来、実はピロリ菌が胃に存在したほうが健康にとっていいという結果がでれば、そのときはピロリ菌を少量飲んで感染すればいいですね。ところが、レーシック手術は角膜に手を加えるので、将来もっとすばらしい技術が開発されたときには、すでにレーシック手術を行っているので施行できないという可能性もあるわけです。
ですから、今困っていれば、そしてメガネやコンタクトがないほうが生活や仕事に明らかに便利であれば行ってもいいでしょうが、メガネやコンタクトに不満がない人があえて行う必要もないということです。ですから眼科の医師でも、メガネやコンタクトで問題ない先生は当然にレーシック手術を希望しません。そんな観点からも医療行為を眺めると別の考え方も生まれますね」
(文=新見正則/医学博士、医師)