2月12日、競泳の池江璃花子選手が白血病であることを公表し、競泳界のみならず、世界的に衝撃が走った。池江選手は競泳5種目の日本記録保持者で、昨年のアジア大会では6冠を達成するなど、来年に迫った東京オリンピックでいくつの金メダルを獲得するかと期待されていたからだ。
そのため、池江選手の告白以降、白血病とはどのような病気なのか、どんな治療があるのか、といったニュースがさまざまなメディアで流れている。そんななか、白血病治療に劇的な効果が期待されている薬が認可され、話題になっている。
2017年8月に急性リンパ性白血病の治療薬「キムリア」がアメリカで承認され、すでに難治性の血液のがん治療に用いられている。日本でも2月20日に「キムリア」の製造販売が了承され、早ければ3月には承認となる見込みだ。
スイスの大手製薬企業・ノバルティス社が開発したキムリアが注目されている点は大きく2つある。ひとつは、従来の抗がん剤とはその作用機序が大きく異なる点。もうひとつは価格にあり、アメリカではキムリアを用いた1回の治療が約5000万円と、非常に高額である。
キムリアを用いての治療は、正式にはCAR-T(カーティー)細胞療法と呼ばれる。従来の抗がん剤治療では、化学物質によってがん細胞を破壊し、増殖を阻止する方法が一般的であった。これに対しキムリアは、患者の血液から取り出した免疫細胞の「T細胞」にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させる遺伝子導入を行いCAR-T細胞とした後、さらに培養し、その後体内に戻す。体内に戻されたCAR-T細胞は、がん細胞を狙って攻撃するといった治療法である。患者から採取した血液が原料となるキムリアは、いわばオーダーメイドのがん治療法といえるだろう。海外における治験では、実施した患者の8割に効果があったと公表されている。
高額治療費をどう賄うのか
一般的に医薬品は、製造工場で大量生産され市場へと流通し、各医療機関で使用される量に比例して利益が見込める。しかしながら、前述したようにオーダーメイド療法ともいえるキムリアでは、製造コストと対象となる患者数のバランスから考えると高額になることは避けられないのだろう。アメリカでは1回の治療費が約5000万円といわれるが、保険制度の異なる日本では、医療保険の使用により単純計算で500~1500万円の自己負担となるが、「高額療養費制度」が適用されれば、自己負担は100万円以下になることも考えられる。しかしながら、その残りは保険から支払われるとなると、国の医療費がかさむ結果となり医療費の新たな課題となることは否めない。
その上、治療に伴いさまざまな副作用が起きる可能性もあり、その副作用への対症療法に必要な薬も高額となる場合も想定され、治療費はさらに高額となる可能性もある。そうなれば、保険制度を大きく揺るがす事態になりかねない。
今回、白血病治療薬として承認されることになるキムリアであるが、血液以外のがんへの応用も研究が急がれる。しかしながら、腫瘍への応用は血液とは異なり、さらなる研究が必要な現状にある。記憶に新しいオプジーボは、2014年7月悪性黒色腫に対して承認され、薬価収載当初は約73万円(100mg)だったのに対し、適応が広がり、使用量が増えたことで2018年には17.3万円まで下がった。一足飛びにはいかないのが医療の進歩ではあるが、キムリアもオプジーボ同様に適応が増え、多くのがん患者を救うようになることを願う。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)